2000年 6月の幻想断片です。 |
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曜日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 天 | 土 | 夢 |
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気分 | × | △ | − | ○ | ◎ | ☆ |
6月30日− |
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赤屋根の並ぶ〈港町モニモニ〉の昼下がり。 「にゃお」 曲がり角の向こうから、猫の声がした。 「にゃお」 立ち止まってナミリアが返事すると、子猫が顔を出し、彼女の足に擦り寄ってシッポをくねらせた。甘ったれの子猫の頭を、ナミリアは幾度も優しく撫でる。 友達のリンローナはしゃがみ、嬉しそうに笑った。 「ナミ、すごい才能だね〜」 乾いた風が流れ、町中に涼しさを配っていった。 |
6月29日− |
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悩み事と仲良しになれば、きっと心は軽くなるはず。物事を単純にとらえれば、きっと頭も軽くなるはず……忙しい日常から離れて、自由な空へ羽ばたこう。 空はいつでも、そこにいるから。 |
6月28日− |
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かわいらしいバスケットにサンドイッチやら果物やらを詰め込んで、娘は友達とピクニックに出かけた。秋の空は高く晴れ渡り、時はゆっくりと過ぎていった。 |
6月27日− |
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夕暮れ時、空は真っ赤に燃えている。 「きれいだね……」 とつぶやくリンのほっぺたも、肩の辺りで切りそろえた薄緑の髪も、今は黄昏色に塗り替えられている。 「こんな色につつまれてると、自分の存在が、自分の悩み事が……すっごく、ちっぽけに感じられるわね」 魔術師のシェリアが、そう言って溜め息をついた。 |
6月26日△ |
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長い銀の髪がなびく。しゃがみこんで樹の枝をよけたかと思うと、次の瞬間、高らかに舞いあがる。 「いい風だわ……森をめぐって……」 風に住み、風を食べ、風とともに生きる妖精セルファ族の娘は、瞳を閉じ、朝の散策を楽しんでいた。 |
6月25日− |
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頭上には澄みきった青空と白雲。 濃い緑の森が果てしなく広がる。 赤屋根の家々が建ち並ぶ小都市。 個性豊かな住人らが泣き、笑う。 妖精は踊り、魔法の火炎が舞う。 戦士の剣は三日月を映して光る。 吹き抜ける風は命の歌を届ける。 ……これらは、森の大陸の断片。 |
6月24日△ |
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小学二年生の麻里は、放課後、近所の〈若草公園〉に来ていた。ベンチに座り、灰の空をじっと見上げる。 少しずつ雲の色が濃くなって、妖しくなって……。 「あっ!」 最初の一粒が土にたどり着くと、雨はしだいに勢いを増す。麻里は、新品の黄色い傘を勢いよく開いた。 |
6月23日− |
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ルデリア世界で最大の人口を誇る商業都市ズィートオーブも、夜更けには静まり返る。満月を雲が隠してしまった。やがて雨がささやき、土を湿らせる。 その安らぎのメロディーを聞きながら、リュナンは深い眠りへと落ちてゆく……新しい朝が訪れるまで。 |
6月22日○ |
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レフキルの瞳の中に、あまたの小さなピンク色の花が咲いている。嗅覚に響く甘い香り。 「これ、よく見ると……全部、微妙に色が違うよ」 しゃがみこんでいた彼女は、にわかに振り返り、親友に向き直った。長い耳が揺れ動く。 サンゴーンは真剣に、そして嬉しそうに見つめる。 「魔法では、こんな可愛い色は出せないですの……」 ピンクの花をくすぐって、歌う風が通りすぎた。 |
6月21日− |
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俺たち〈山の神〉だって、朝の冷たい牛乳を、ぐいっと飲みてぇんだな。だからよ、毎朝、谷のお椀いっぱいに牛乳を注いで、一気に飲み干す。それから右手で口元をぬぐい、ふぅと溜め息をつくんだ。 ……牛乳? 人間どもは〈朝霧〉って呼んでるぜ。 |
6月20日− |
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セルファ族の集う〈風の森〉を背景に――リース町のたたずまいは実に麗しい。町のどの通りも、濃い緑の葉を茂らせた並木で彩られ、そこをさわやかな微風が吹きぬける。肌の白いノーン族の魔女が間口の狭い本屋から顔を出し、重厚な鐘の音が響き渡る……きわめて平和な町だ。丘の上には美しい風車が群れ、長い時を経て、なお、ゆったりと回り続ける。 |
6月19日△ |
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手を伸ばせば届く所まで、次の季節が来ている。風の精霊たちが大空を駆け、散歩し、笑い合っている。 |
6月18日× |
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いくら世の中が不景気だからって、心の中まで赤字続きじゃ浮かばれない。不満やら怒りやら憂いやら絶望やら……膨らむ一方のマイナス感情を、どうやったらプラスの力に変えてゆけるだろう? 森の大陸に住んでる親友たちへ、久しぶりに手紙を出してみようか。想像力という名の切手を貼り付けて。 |
6月17日△ |
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リンの発想は面白い。例えば、こんな感じだ。 タックとリンといっしょに町を歩いていたら、重そうな曇り空から雨がパラパラ降ってきた。俺とタックがレインコートを準備しだすと、リンが軽く首を振った。 「ねえ。あたしの傘、貸してあげるよ」 そうは言っても、何の準備もしないままリンは足早に歩き始め……やがて広場の片隅に来て立ち止まった。 「はい、どうぞ!」 やつが楽しそうに指さしたのは、一本の樹だった。 |
6月16日− |
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雨上がりの空に満月が浮かんでいた。彼はまだ眠たそうに瞳をこすり、雲に向かって愚痴をこぼしている。 「もっと寝たかったのに……」 星たちは柔らかな光を灯し、微笑んでいた。 |
6月15日○ |
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見えない〈時の河〉は、この瞬間も流れ続ける……掛け時計の針を動かし、砂時計の砂を落としながら。 |
6月14日− |
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薄い霧の中、紫や青や白のアジサイが鼠色の空を見上げています。雲の大陸では、今年も雨の樹がすくすくと育ち、小さな雨の実をこぼします。 |
6月13日− |
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「おっはよ〜。みんな、元気ぃ?」 晴れた朝。メラロール城の中庭に、ひときわ明るい声が響き渡る。ラディアベルク家の血筋には珍しい能天気な娘……彼女の名はレリザ、歳は十八。これでも、れっきとしたガルア公国の第一公女である。同い年で、従姉妹にあたるシルリナ王女とは大の仲良しだ。 「おはよう。今日もいい天気ですね」 二人の姫様は侍女たちの先導で大広間に向かった。 |
6月12日− |
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暖かい白砂、深く澄んだ熱海(ねっかい)、そして潮風。波の音は心を揺すり、行きつ戻りつを繰り返す。 「夏が、とっても待ち遠しいですわ〜」 曇り空を仰ぎ、サンゴーンは次の季節を思い描く。 |
6月11日○ |
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森へ行こう。 そして、本当の自分を見つけよう。 その静寂の中で。 |
6月10日− |
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「はいっ、お待たせですよん!」 看板娘のファルナは、茶色の髪を揺らしながら、慣れた手つきで、お客さんに料理を出した。 「おう。ありがとなっ!」 いつも混み合っているから、料理や酒が出てくるのには時間がかかるけれど、文句を言う人は誰もいない。だからファルナたちも落ち着いて準備ができる。そういう、いい意味での〈のんびりさ〉が、彼女らのミスを減らし、酒場〈すずらん亭〉の人気を不動にしている。 |
6月 9日△ |
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小雨の降りやまぬ朝の小道を歩いていると、黒雲みたいに灰色の、カエルの親方に出くわした。どうやら、そこは人間の道とカエルの道の交差点だったようだ。 さすが親方。快く一歩後ろに飛び跳ね、道を譲ってくれたので、私は目礼し、その場を去った。 |
6月 8日− |
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曇り空の下、湿気を吸い込み、紫陽花が染まる。その花をカタツムリが伝い、雨の季節を待ち望んでいる。 |
6月 7日− |
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「ねえ、タック」 森で夕食の準備をしながら、リンローナが訊ねる。 「タックとケレンスって、いつから一緒なの?」 腰をかがめ、薪を拾いながらタックが返事をする。 「そうですねえ……家が隣同士だったので、気がつくと一緒に遊んでました。いわゆる幼馴染ってやつです」 「じゃあ、リンと姉貴とルーグはどうなんだ?」 ケレンスの質問に、リンローナは大きく頷いた。 「あたしたちも、いつの間にか一緒だった!」 森に散らばる赤い夕陽が、静かにくすんでいった。 |
6月 6日− |
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「たくさん帰ってくるといいね」 稚魚たちを川に放流し、レフキルが言った。 「そうですわ……本当に」 遠く霞む海を眺め、サンゴーンがつぶやいた。 |
6月 5日− |
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赤い帽子をかぶった春風の妖精が、広々とした野原を舞い、花のつぼみを優しく撫でる。すると、眠っていた花たちは穏やかに目を覚まし、つぼみを開き始めた。 |
6月 4日◎ |
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旅先で詩集を手にした時、リンローナは、故郷のモニモニ町で学院聖術科に通っていた頃を思い出した。 「……ラサラさん」 朝一番の講義が終わると、後ろから声がした。 「おはよう、セディーちゃん。どうしたの?」 「あ、あの……さっきの詩、すごく良かったです」 リンローナは今の講義で創作詩を発表したのだった。教授からはそれほど高い評価を得られなかったが、普段は寡黙な同級生のセディーが褒めてくれた。詩に込めた素直な思いが届いたんだ、共感を得られたんだね。 リンローナは、とびきりの笑顔で礼を述べた。 「ありがとう!」 |
6月 3日− |
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「君。ここを出ていくのかね?」 誰もいない夜道を歩いていると、貴志の頭の中に奇妙な声が響いた。その声色に聞き覚えはなかったが、貴志はすぐ立ち止まり、丁寧に返事をした。 「ええ、急に引っ越すことになりまして」 「そうか……。引っ越しても、また来てくれよ」 その瞬間、貴志は相手の正体を直観で理解した。 「絶対、また来ますよ。僕の〈街〉さん!」 |
6月 2日− |
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時間という名の氷山は、削って食べても、放っておいても、一方的に溶けるだけで増えることはありません。どうせ溶けちゃう氷なら、綺麗な容器に乗せ、特製のシロップを使って、自分だけのかき氷を作りませんか? |
6月 1日− |
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月の光の映写機が地面に濃い影を描く。木々がざわめき、冷ややかな風が行き交い……その風の中を僕はあてもなくさまよう。変わりつつある自身への恐れ、流れ去る時間に対する憎しみと悲しみ、取り戻せない夢物語たちへの憧れと、それらに対する罪の意識を抱えながら。 |
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