2000年 8月


2000年 8月の幻想断片です。

曜日
気分   ×


  8月31日△ 

(休載)
 


  8月30日× 

(休載)
 


  8月29日× 

(休載)
 


  8月28日△ 

 夢も、夢見る時がある。

 時計の針を止めようと思ったのは、
 時の流れが速すぎるから。

 夢たちよ。
 銀の針が再び時を刻み出す〈その日〉まで、
 ゆっくりおやすみ……。
 


  8月27日△ 

 一度きりの人生だから、思いきり自由に生きたい。
 だから俺は冒険者になり、ミグリ町を飛び出した。
「ケレンスぅ、出発するよー!」
「おう、今行く!」
 今は一歩ずつ、土を踏みしめ、未来へ歩き続ける。
 自分と、自分の夢と、素晴らしい仲間達を信じて。
 ……そして。
 いつの日か、旅を終えたら、故郷に帰ろうと思う。
 


  8月26日− 

 新しいモノレールに乗って、町を見下ろした。
 わずか二十分の空の旅……私は天人になれた。
 


  8月25日△ 

 あたしはいつも、ほんとのあたしをさがしてる。
 でも、それをさがしてるあたしも、
 あたしなのかどうかわからないし、
 あたしのかけらはバラバラになって腐ってるから、
 いくらさがしても、あたしはみつからない。

 それでも、きょうもさがしてる。
 


  8月24日△ 

 夜を覆い尽くす真っ黒な雲になりたい。
 街に大雨を降らせて、新しい河を作る。
 そして、星空を独り占めにしちゃうんだ。
 


  8月23日△ 

(休載)
 


  8月22日△ 

(休載)
 


  8月21日△ 

(休載)
 


  8月20日− 

 夏の陽射しは強すぎる。
 街も空き地も、時間も自分も溶けてしまいそうだ。
 ……いや、すでに溶けてしまったのかも知れない。

 ここには夢も希望も、そして絶望すら存在しない。
 成長とは、心のゆとりを捨てることなのだろうか?
 かつて、多くの人々が肥沃な大地を捨てたように。
 


  8月19日○ 

「ねえー、ケレンスー、池があるよー!」
 向こうの方でリンが手を振っている。池か……これで無事、今夜の水も確保できそうだ。
 池の水は驚くほど透き通り、小魚が泳いでいた。
「きれいだねー」
 リンが笑った。俺は元気良く相づちを打つ。
「そうだな!」
 旅という非日常を繰り返していると、いつしかそれが日常になってしまいそうになる。そうなったら旅は終わりだ。そうならないために、何にでも驚く気持ちや、好奇心や探求心とやらを、いつまでも忘れずにいたい。
 


  8月18日− 

「お姉ちゃん、行こっ!」
 雨上がりの夢曜日。緑まぶしい遠くの森を指さして、妹のシルキアは好奇心いっぱいの瞳を輝かせた。
 両親は〈すずらん亭〉の台所で笑っている。
 姉妹はおそろいの麦わら帽子を被った。姉のファルナが腕を掲げる。
「さあ、行くのだっ!」
 新しい物語が始まりそうな予感がした。
 


  8月17日− 

 夕陽を全身に浴び、坂道を登る。
 大好きな曲を鼻歌で唄いながら。
 家では真っ白なご飯が待ってる。
 穏やかに緩やかに時は流れ……。

 あ・こ・が・れ。
 


  8月16日− 

 あまりに長い上り坂が続いたので、ペダルを漕ぐのに疲れ、自転車を押して歩く。自動車の群れは楽々と峠を越えてゆく……でも、彼らは澄んだ空気を知らない。
 いつしか斜面は平らになり、下り坂にさしかかる。勢いをつけて自転車に飛び乗ると、眼下に真っ青な海が開けた。身体にぶつかる空気が、本当に気持ちいい。
 間もなく隣町だ。
 


  8月15日− 

 日暮れゆく街の片隅で、
 僕が独り……創っていたのは、
 永遠に終わりなきジグソーパズル。

 いつか消えてゆくジグソーパズル。
 


  8月14日− 

 セラーヌ町から日の出の方角を目指し、山奥のサミス村へ旅立つと決まった時は、途方もない旅路のように思えた。事実、全く人影のない草原と峠が延々と続き、
「この道で合ってるのか?」
 と、思わずにはいられなかった。
 ……でも、目的地は確実に近づいていて。
 最後の森を抜け、サミス村の集落が視界に入った瞬間、俺の体は熱く火照り、心は感激で震えていた。
 


  8月13日− 

 白樺の林に木洩れ日が射し込み、
  お花畑には夏の花が咲き乱れる。
 河の水はいっそう蒼く澄み渡り、
  さすらい人の心の渇きを癒した。
 


  8月12日− 

 秋の夜。男は、丸太で作られた簡素な家の小さな窓から、冷たい上弦の月を見上げていた。男の名はムーナメイズ・トルディン。若き〈月光の神者〉である。
 傾いた白い月を、厚い雪雲が隠してしまった。
「……さて、寝ますか」
 ヘンノオ町は、冬への階段を一歩ずつ降りてゆく。
 


  8月11日○ 

「今は、耐えましょう」
 リリア皇女の口癖である。
 森大陸ルデリアの南西にあるマホジール帝国は、かつて高度な魔法文化で栄えたが、今や主要な属国をすべて失い、風前の灯だ。政治への関心が薄い皇帝ラーンに代わり、崩れかけた帝国をかろうじて支えているのが、知慮深きリリア皇女である。まだ十五歳。
「きっと、夜は明けるはずです……」
 皇女の奮闘は、帝都の民に活力を与えている。
 


  8月10日− 

「もう……しょうがないわねぇ」
 シェリアは腕を組み、大げさに溜め息をついたが、まんざらでもなさそうだ。ぶつぶつ文句を言いつつも、目を閉じて精神を集中し、呪文を唱えながら手を掲げる。
 彼女の指先から白い煙が出て、俺たちをつつんだ。煙には独特の匂いがあり、吸い込むと喉をやられてしまうので、しばらくの間、息を止めておく。
 煙が消えた頃、俺の横のタックが弾む声で言った。
「夏の森には、これが欠かせませんよね!」
 シェリアが唱えたのは、虫除け妖術だったのだ。
 


  8月 9日△ 

(休載)
 


  8月 8日− 

『泣きたいときは、思いきり泣いていいのよ』
 母が遺してくれた言葉は、幾度となくリンローナを救ってくれた。いくら我慢しても、我慢することに強くなるだけ。心に積もる哀しみや淋しさの雪を、なだれが起こる前に、涙の河で溶かそう……母は教えてくれた。
 瞳が温かく濡れてきた。夜はいっそう更けてゆく。リンローナは、いつしか優しい眠りへと堕ちていった。
 


  8月 7日△ 

 通り雨が、夏の暑さを洗い流してくれる。
 


  8月 6日− 

 古都エルヴィールのたたずまいは麗しい。かつては広大なゴアホープ公国の都であった。今でこそラット連合国の一地方都市に成り下がってはいるが、文化の高さや魔法の普及度では、世界的に有名である。今日も郊外の大きな港から、対岸シャワラット町行きの帆船が静かに出航する。
 


  8月 5日− 

 知らぬ間に時は過ぎ、ひまわりが揺れていた。
 


  8月 4日△ 

(休載)
 


  8月 3日× 

(休載)
 


  8月 2日  

(休載)
 


  8月 1日× 

 琴の音が美しく響き渡る夜の川辺を、白鳥や鷲が優雅に羽ばたく。弓の使い手は山羊を追い、銀のひしゃくを傾ける……夏の夜空にちりばめた物語。