2000年12月の幻想断片です。 |
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曜日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 天 | 土 | 夢 |
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気分 | × | △ | − | ○ | ◎ | ☆ |
12月31日△ |
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人通りの少ない街の大通りはきれいに飾られ、明日からの祭りに備えている。空気は冷えきっているが、その芯には、何とも言えない期待と希望が垣間見える。 新年(祝週)を目前としたメラロール市の情景だ。 |
12月30日○ |
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樹の精は静かな眠りについている。 吹きすさぶ風をまとい、春を遠く待ち望んでいる。 |
12月29日− |
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雲が途切れ、三日月が顔を出したけれど、粉雪はまだ降り続いていた。柔らかな光が、おぼろに白い精霊たちを映し出す。冬の幻想は全てを優しくつつんだ。 やがて月は雲に隠れる。地には足跡が残っていた。 |
12月28日△ |
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海辺に捨て置かれた旧道の廃トンネルで、和之は途中から駆け出した。何かから逃げていた。早く、ここを抜けたかった。じめじめして、暗くて……。 でも、これを抜ければ家は間近なはずだった。トンネルの向こうにぼんやり浮かぶ一点の光だけを見つめて、和之はただ、がむしゃらに走った。トンネルの向こうで待ちかまえている、どしゃ降りのことは考えずに。 |
12月27日△ |
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バイオリン弾きの奏でるメロディーに合わせ、月光が金色の粉となって舞い降りてくる。小川のせせらぎが心地よく響く〈この地〉を見下ろし、星たちは輝きを強めた。天はいつまでも安らかだった。 |
12月26日△ |
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汽車の扉が開くと……そこは天だった。天のところどころには色とりどりの家々が浮かび、真っ青なキャンバスに映えている。その中を人々が行き交う。今まで見てきた中では一番大きな街だ。 |
12月25日△ |
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北風に乗って、氷がどんどん降りてくる。夜は暗くて見えないけれど、朝になったら、立派な〈しもばしら〉になっていることだろう。 |
12月24日△ |
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町を出て、あの山を登り、湖面を揺らし、大海原を渡り、時間をも越えて、風はどこまでも流れてゆく。 リアラは想う……そんな風になってみたい、と。 |
12月23日○ |
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広場の噴水は七色の光を振り撒いていた。 子猫がやってきて「にゃーん」と鳴いた。 顔を出した陽が、遠くの森を真っ赤に染めた。 いま、ミグリの町の静かな朝が幕を開ける。 |
12月22日× |
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冷たいはずの夜気さえ、紗佳には、なぜか優しく感じられた。それは紗佳の心の方が冷えきっているから。 彼女は黒い空を見上げて白いため息をつく。それは夜風にとけて広がり、かすんで見えなくなった。 |
12月21日× |
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人生とは何だろう。 死ぬとは何だろう。 死ぬとは、そんなに怖いものだろうか。 死んでも、魂は残るのだろうか。 今や、希望の灯火は消え果てた。 |
12月20日△ |
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「まあ、なんとかなるさ。短気は損気、急がば回れ、灯台もと暗しだ。のんびり行こう」 そう言ったミラーに対し、シーラはあきれ顔だ。 「もう。いっつも、それなんだから……」 すると、ミラーは急に真顔になって語りだした。 「でも、何とかなってきただろう? ね?」 「……う〜ん。そうなのよねー」 否定できなくて、おかしくて、シーラは笑った。二人の影法師が細く長くなり、夕闇に消えていった。 |
12月19日− |
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「うーんっ」 せまいテントを這いだしたリンローナは大きな伸びをした。森の奥深くで迎える新鮮で心地よい朝だ。 「太陽さん、おはよー。今日もよろしくね」 開口一番に言うと、それから彼女は薄緑の瞳をきらめかせ、色々なものに朝のあいさつを始めた。 「小鳥さん、りすさん、うさぎさん。虫さん、花さん、草さん、葉っぱさん、根っこさん、幹さん。雲さん、風さん、土さん。朝もやさん、朝つゆさん、朝霧さん。みんなみんな、おはよー。気持ちいい朝だねっ!」 そしてもう一度、彼女はあくびをするのだった。 |
12月18日− |
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「これね、いい香りのする炎なんだって」 レフキルは小さなビンを取り出し、友人のサンゴーンへさしだした。ガラスで作られたビンの中には、りんご色の炎が、右へ左へとゆらめいている。それを間近でのぞく二人の横顔は赤く照らし出されていた。 「どこで手に入れたんですの?」 というサンゴーンの質問に、レフキルが答える。 「露店の魔法屋で。ちょっと怪しかったけどね」 「面白そうですわ……」 サンゴーンは興味津々につぶやいた。一方、レフキルはごくりと唾を飲み込み、深呼吸をし、それからビンのふたをゆっくりと回し始める……。 |
12月17日○ |
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「おーい、ファルナちゃん。いつものをくれ〜」 暖炉のそばに陣取っていた狩人の男が声をあげた。外は粉雪が舞い飛んでいるが〈すずらん亭〉は暖かだ。 「はあい、今すぐ、お持ちするのだっ!」 と言って、分厚いコートを着込んだファルナは、茶色の髪をなびかせ表へ出ていく。地下の貯蔵庫には、白ワイン〈北の故郷〉やビール〈夏の微風〉がぎっしり貯蔵されている。そのどれもが〈すずらん亭〉の特製だ。 「寒いときに冷たいビールなんて、不思議ですよん。みんな『体があったまる』って飲んでくれるけど……」 ファルナはつぶやいた。それから瓶を抱え、滑らないよう足下に気をつけながら、階段を登っていった。 |
12月16日○ |
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あっ、北極星がウインクしたよ。 オリオンさんが微笑んでくれるね。 銀のひしゃくは、はっきり分かるんだ。 白い息が美しい天の絵に溶けてく、この幸せ。 星空のプレゼント、どうもありがとう! |
12月15日− |
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光る花を知っていますか。 月の瞬きを受けて、ぼんやりと。 清らかな魂のかけらのように。 その花は永遠に灯り続けるのです。 |
12月14日△ |
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「う〜んっ、ふわぁ〜」 ウピは口元を押さえ、大きなあくびをした。朝の空気が溶けだしても、まだ昼には早い〈サラリエ通り〉は人影もまばらで、ついサボりたくなり。いつの間にか、南国の真っ青な空を、呆然と見上げているのだった。 |
12月13日△ |
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「河の水は流れてゆくけど、また森の奥から新しい水が流れてきて、やっぱり河は河なんだよねっ」 俺を見上げ、薄緑色の瞳がいたずらっぽく笑った。リンって、ときどき面白いことを言い出すんだよな。 「不思議だよね〜。ケレンスもそう思う?」 ああ、そうだな、と俺はうなずいてみせた。 |
12月12日− |
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ひどい試合だ。ボロ負けだ。もう帰りたい。 でも、勝てる可能性がないわけじゃない。 もう少し、あきらめないで、やってみるか。 失くしてしまったものたちを、取り戻すまで。 |
12月11日− |
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ためしてみるよ。 いろんなことを。 いろんなひとを。 たまに失敗する。 でも、めげない。 ためすのは、おもしろいから。 |
12月10日− |
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「あ〜、寒っ。寒すぎっ」 明け方、修行のために床を這いだした格闘家のユイランは、震える手つきで分厚い上着を羽織りながら愚痴をこぼした。北方の港湾都市、マツケ町の冬は厳しい。ありとあらゆる水は凍りつき、空は冷えきって固まり、吐息は吹雪のように白く染まる。昼は短く、光は弱い。 「走ってるうちに、あったまるかな?」 ユイランは滑りにくい靴を履き、表へ飛び出した。 |
12月 9日− |
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すでに陽は沈み、寒さの素が天から染み込んでくる。初冬の町はどこか慌ただしく、上っ面だけ楽しげな雰囲気が漂い、聞き飽きたメロディーが流れている。その喧噪をよそに、彼はコートの襟を立て、薄暗い道を登り始めた。どこかに置き忘れた歌を鼻で唄いながら。 |
12月 8日− |
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「みんな去ってしまったよ」 「みんな行ってしまいましたよ」 王様とお妃様が語った。開拓の頃は活気のあった火の国も、今は見る影もなく衰退した。聖なる炎を守り続けるのは、年老いた王様とお妃様だけという有様だ。 「もう、誰も戻ってこないだろう」 「もう、誰も帰ってこないでしょうね」 言い終えると、彼らは深く息を吐いた。 |
12月 7日○ |
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始まりは突然だった。 遅刻だ! 慌てて跨線橋を駆け上がる途中、ふと定期券を見ると、俺の知らない駅名が書かれていた。 間違えた、とは思いつつも、俺はそのまま走り続け、ホームに滑り込み、列車のドアへ飛び込んだ。 |
12月 6日− |
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森の奥に名もない滝がある。かなりの落差があって、通りがかる者に清々しさと涼しさを与えた。秋の暮れ、そこを五人の冒険者たちが通りがかった。 「この季節には、ちょっと寒々しいですね」 「もうすぐ凍るのではないだろうか?」 「早く行きましょ」 「春先になったら、水量が増えそうだね〜」 「溶け始めた雪を集めて、な……」 そして再び、永い静寂が辺りを覆うのだった。 |
12月 5日△ |
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そこには、いつも夏がいる。 海は深く蒼く、珊瑚が静かに揺れている。色とりどりの蝶が舞い、カラッサの樹は甘酸っぱい果実を結ぶ。 水の洞窟は次なる探求者を待ち続ける……ここはラミ島、熱海(ねっかい)に浮かぶ永遠の楽園。 |
12月 4日− |
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ハイム河の乙女は月の光で金の羽衣を編む。 ガルア湖の聖者は星の石で銀の王冠を作る。 森大陸ルデリアに行って、確かめてごらん。 |
12月 3日○ |
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どこだって行ける。 一葉の地図と、想像力さえあれば。 |
12月 2日− |
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季節をまちがえたヒマワリが、小さな顔を懸命にもたげている。夕霧はすべてを溶かし、三日月が西に横たわる。焚き火の残り香がただよう小道を、私は今日も昇ってゆく。どこまでも、いつまでも、昇ってゆく……。 この先は永遠の袋小路だと分かっているのに。 |
12月 1日△ |
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カレンダーも残り一枚となった。まなみは、切り取った先月のカレンダーの裏に、大きな雪だるまの絵を描いた。幼稚園もあと少しで冬休みに入る。そして、クリスマスにお正月……まなみは胸おどらせるのだった。 |
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