[青空を仕入れちゃう?(1/3)]
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「あの青空みたいに素敵な売り物があれば、きっと買うよぉ」
「へっ? 青空を仕入れちゃう……ってこと?」
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「ねむ。これから、空いてる?」
学院の帰り道、十五歳のサホ・オッグレイムは、同級生の〈ねむ〉ことリュナン・ユネールに訊ねた。ルデリア大陸の中では南西部に当たるズィートオーブ市の午後の陽射しは夏の厳しさを残して縦に降りそそぐけれど、空の天井は日ごとに高くなり、夕暮れは明らかに早まっている。海も遠くない旧市街ロンゼの整備されたレンガ作りの環状道路には、爽やかな風が通り抜け、サホが着ている七分袖の赤いシャツの袖口をはためかすのだった。時折、おなかの布も舞い上がり、白くて長いズボンを止める洒落た茶色のベルトと、可愛らしいおへそが覗くのだった。
「うん。何もないよぉ」
応えたリュナンの方はやや色の白い痩せ気味の少女で、物の良い薄紫色のブラウスに、微かな桃色のロングスカートを合わせている。身体が弱く居眠りの多い彼女は、いつしか〈ねむ〉と呼ばれるに至った。自分自身も〈ねむちゃん〉と言っている。
二人とも妖精の血が幾星霜を経て人間に深く混じったウエスタル族である。この民族に特徴的なのは、身体の造りが華奢で比較的運動には不向き、魔法が得意、それから髪の色がバラバラだということである。リュナンはむしろこの国では珍しく普通の金髪だが、後ろで束ねたサホの髪は赤っぽい色をしている。
彼女たちが通っている学院に指定の制服はない。それぞれ革の手提げ鞄を持っているが、必要のない書物は校舎に置きっぱなしにしてあるのだろう、少なくとも重たそうではなかった。
目の前を何かが横切り、サホは素早く身をかがめる。飛び去る姿を追えば、それは今年一番早く見かけたトンボであった。
少し微笑んで、何事もなかったかのように体勢を立て直したサホは、建物の日陰を選びつつ隣を歩く親友に呼びかけた。
「ならさー、ちょっと付き合わない? あたい、これから、うちの商品の仕入れに行こうと思ってるんだけど。何軒か回るんサ」
サホの実家は〈オッグレイム骨董店〉という商店を経営している。父が亡き後、母が切り盛りしているが、放課後や学院が休みの日は長女のサホも手伝っている。店番や倉庫の片づけにとどまらず、仕入れや情報収集、果ては幼い弟や妹の面倒を見るのも大事な仕事だ。リュナンは興味津々そうに問い返す。
「面白そうだね……。ねむちゃんも行っていいの?」
「もちろん!」
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