[時を刻む]
いまだ年月を経ておらず、背の低い子供の樫の樹と寄り添うように立っている少年は、空を見、白い雲の数を数えていた。
「一つ、二つ……たくさん」
その樹は海を見下ろす小さな岬の断崖に立っていた。空は青く、海は深緑で、砂浜は狭く岩場が続いていた。季節と季節の合間の、どの季節にも属さない円やかな日の出来事だった。
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一人の青年が、育ち盛りの樫の樹の枝に腰掛けて、海を見、沖の方で陽炎のようにゆらめいている船の数を数えていた。
「一隻、二隻……五隻、全部で五隻」
潮の香りを含んだ風に煽られて、青年の黒い前髪が揺れる。遠い汐の音は心地よいリズムを繰り返し、陽の光は波の上でちらちらと輝いていた。それはあたかも夜空の星を思わせた。
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杖をつき、皺だらけになった老人が、大きく育って幾千もの葉を茂らせている樫の樹を、飽きることなく仰ぎ見ていた。彼は葉の数を数える必要はなかった――思い出すだけで良かった。
老人は満ち足りた表情で樫の樹を愛おしそうに眺めていた。いつしか黄昏が迫り、後ろ姿が影法師のように溶けていった。
安らぎの夕闇の中へ。
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――そして、夜が来た。
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悠久の海の時間で計ると、こうなるのだ。
それでも海は、朧気ながら記憶に留めていた。
もう、いなくなった〈かれ〉のことを――。
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