[美しき森の奥を、言の葉に変えて]
森の小道の涯ては、広々とした静けさの後ろに溢れるばかりの〈いのちの賑わい〉を潜めている。細い幾筋もの光が、空の高みから森の屋根の梢を縫って降り注いでいた。透き通ったせせらぎが速やかにこぼれる滝のそばには、七色の子供の虹がかかり、辺りにうっすらと雪のような白い霧をふりまいていた。
あるがままに優しい水音が響き、川魚は爽やかに駈け抜けて、虫は草と草の間を渡り、山鳥たちの歌声と羽音が重なる。
風は澄み、水は絶えず小さな滝壺に注ぎ、さざ波を立てる。きのこは育ち、岩と石に苔はめぐり、草と木の匂いがしていた。
その滝の脇に、ほとんど真上からやってくる光を受けて、宝の石のごとく、おぼろに七色の花が浮かび上がっていた。くきは枝分かれし、滝の虹で染めたかのように、七つのくきの先にそれぞれの色――赤、橙、黄色、緑、水色、青、紫――のささやかな花が咲いている。そして花びらを優しく撫でる風を受けて、時折、それぞれの花の彩りは入れ替わることもあるのだった。
朝方、森に投げかけられる生まれたての光が斜めの頃、目を醒ましたばかりの七色の花が首(こうべ)を少し垂れると、うっすらと花の色に染まった雫がこぼれる。それは滝壺に落ちて、銀の衣をまとい、水底(みなぞこ)で宝の石へと変わるのだった。
〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜
「ふーん。その花が、この森の奥にあるの?」
「この森かは分からないけれど……森は繋がっている。いつかきっと、どこかで出会えるような気がするわ。信じていれば」
水汲みの母と娘が、村外れを流れる河の水に木桶を浸した。汲んだ水の中に、小さな青と紫の花びらが混じっていて――。
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