[雨局、活況を呈す]
このところ、雨局の電話は鳴りっぱなしだ。
「もしもし、雨局です」
「あの、出前をお願いしたいのですが」
女性客が言う。それに対応する局員たちも馴れたものだ。
「はい。御住所、お名前は?」
やや横柄だが、てきぱきと対応する。
すると電話口の相手は応えた。
「大木木ノ下305番地、草野園美」
「えーっと、クサノソノミさんと。量は?」
「あの……普通でいいです」
あまり馴れていないのか、客はやや不安げに言う。
「普通ね。分かりました、三時頃のお届けでよろしいです?」
「あ、三時頃ですね。分かりました」
局員はメモを取りながら、テキパキと確認する。
「では三時頃、クサノソノミさんね」
「はい。お願いします」
「はい、分かりました。ではお待ち下さい」
そして電話を切り、メモを別の係の者に渡す。
そうすると次の電話が掛かってくる。
この時期、雨局は一年で最も活況を呈すのだ。
〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜
髪に雨糸のリボン結んで
六月の小人たちが舞い降りてくる
男も女も
少年も少女も
赤ん坊も老人も
みんな不思議なリボンをつけて
限りなく薄い青の糸をつむいで
蝶ネクタイを結んで
それから水玉の傘をさして
霧雨に乗ってやってくる
注文を受けた雨の雫を
お客の草に届けるために
あるいは花や木々の根に
いつかの実りの季節のために
雲の大渋滞から
下りる場所を見失わずに
徐々に下の方へ移動して
狙った場所から飛翔する
霧雨に乗って
六月の小人たちが――
〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜
「ほう、ほう」
稲の植えられた田んぼでは、蛙の合唱も楽しげに加わる。
雨はますます盛んに降ってくる。
こうして灰色の空の下、緑の命が紡がれるのだ。
明日の朝、もし晴れたなら。
壊れた蛛の巣は、雫の真珠に飾られていることだろう。
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