[雨のオカリナ]
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諸君へ。
ほんのり青みがかった雨が降ってきたならば。
大きく傘を広げ、耳を澄ませて。
その場に立ち止まるがいい。
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「よし、今日こそ!」
鐘の音が高らかに響く中、その日の私は喜び勇んで外に飛び出した。ポケットの中の、オカリナの感触――しっかりした堅く艶やかな材質と、音の穴のくぼみ具合――を確かめながら、灰色の地面を勢い良く駆け通した。
行き着く場所まで来ると、私は胸を抑えて立ち止まり、呼吸を整えた。鼓動も速まっているけれど、身体から汗は流れない。
まだ誰も来ていない。あんなチャンスは滅多になかった。
私はおもむろにポケットからオカリナを取り出し、馴れた動作で口に当てた。私が使っている楽器は、ほとんど透き通って見えるほどに薄い青の色合いをしている。一般的な陶器のオカリナとは違い、驚くほど軽い。
さあ、雨の演奏の始まりだ。
私の持っている〈雨のオカリナ〉を吹いても、音は鳴らない。その代わりに先端から、音程と音の長さに合った小さな雫がこぼれる。先ほどたどり着いた雲の切れ目で演奏すれば、まさに地上の諸君へ、雨の音楽を届けることができるのだ。
遥か下では雨粒の音符が、地面に刻印されるだろう。
私は気持ち良く、重厚な新曲を奏で始めたのだった。
だが、それを楽しめたのは、ほんの短い間のことだった。まもなく、雨の輪の広がりとともに同僚たちが大挙して駆けつけ、私の回りで即興曲が始まった。オカリナを吹いても音がするわけではないから、雲の上は静かな演奏会場だ。だが、地上に届ける私の曲は、他の音が混じって滅茶苦茶に聞こえるだろう。
待ってくれよ〜。あー、これからが良いところだと言うのに。
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そんなことを何度か繰り返したのち、私はひらめいた。
このオカリナの色――限りなく透き通っているが、うっすら見えるか見えないかくらいに青みがかっている――と同じ色の雨を降らせよう。限りなく淡い、青い輝きを混ぜた雫を。
すなわち、それが私の雨だということだ。
楽器を改造し、私は実用に耐えうる状態にした。
というわけで、地上の諸君へ。
降り始めた雨に、ほんの少しだけ薄い青の色がついたのが混じっていたら、傘をさして耳を澄ませ、目を閉じて心を集中させるが良い。私はその場所に、集中的に音符を降らせよう。
私の演奏の出来不出来について論じるならば、それからだ。
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