2006年10月

 
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2006年10月の幻想断片です。

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 10月31日− 


(準備中)

2006/10/31
 


 10月30日− 


[運動の秋/芸術の秋]

「あしたの運動会、中止かなあ……」
「天気予報だと、雨だよ」
「大丈夫だよ、晴れるよ」
「でも重い雲だなー」
 灰色の空を厄介そうな様子であおぎ見ながら、小学生たちが公園の芝生に沿って続く道を歩いている。

 帽子をかぶった年老いた男が、木のそばに小さな椅子とキャンバスを置いて写生をしていたが、その皺の多い手をふと止めた。
 彼は自分の描いた灰色のキャンバスを見て、それから目線をあげ、ほとんど同じ色をした空を見つめた。
 彼はおもむろに立ち上がった。そして近くの木に立て掛けてあった別のキャンバスを持ち上げた。
 それは木の枠だけのキャンバスだった。

 彼はそれを設置し、椅子を運んで来て腰掛けた。キャンバスの向こうに重たい曇り空が覗く。今すぐに降りそうなわけではないが、雨が約束されている厚い雲の大陸だ。
 老いた男は、鞄の中から一本の古びた絵筆を取り出した。それを足元の水差しに浸してから、絵の具はつけずにキャンバスへ落としていった。

 男は空に向かって、ゆっくりと筆を這わせる。速やかに、ごく自然に。
 その時、耳を澄ましていた者は聞いたかも知れない。どこか遠いかなたで、甲高い突風の音がしたのを。
 額に深い皺を刻み、彼は慎重に筆を運んだ。何回か同じ場所をなぞるように。その都度、公園の歓声にかき消されてほとんど聞こえないくらいの、だが鋭い風の歌が響いていたようだった。

 再び筆を水差しにつけてから、彼はキャンバスの中の曇り空をなぞる。
 ついに変化は現れた。
 さっきから筆で塗っていた場所の、現実の雲が少し薄くなったのだ。
 男は額の汗を布で拭いながら、作業に没頭した。

「あ、光が出て来たわね」
 公園の脇を通り掛かった母親が、二人の子供に言った。家族が空をあおぐと、雲間から降り注ぐ光の線が神々しかった。雲の向こうには秋らしい薄い青空が見える。
 絵かきの老人は水筒の水を口に含み、手の甲で唇をふいてからつぶやいた。
「何とか、夕方までには片付くだろうな」
 そして彼は、古びた〈風の絵筆〉を手に取った――。

 翌日は朝から澄み切った青空に恵まれ、近くの小学校から笑い声の絶えることはなかった。
 


 10月29日− 


(休載)
 


 10月28日− 


(準備中)
 


 10月27日− 


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 10月23日− 

 10月24日− 

 10月25日− 

 10月26日− 


[風の葉、水の葉、光の葉(1)]

 風が駆け抜け、木の葉はざわめく。
 夏よりも少し葉が落ちて、梢からはあまたの青い宝石が覗いている。何種類もの鳥が美しい言葉を交わしている森の昼下がり、小さな薄茶色のつがいが枝先を渡っているのが見えた。
「風の葉、水の葉、光の葉」
 友のあとについて歩きながら、リュアが小さく歌う。するとジーナはすぐに立ち止まって同級生の顔を見つめ、目を見開いた。
「それいい! リュア、もっかい歌って!」
「えっ?」
 

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 10月22日− 


(休載)
 


 10月21日− 


(準備中)
 


 10月20日− 


 川の表に映した光の帯は、まるで蝋燭(ろうそく)のように揺れて、水と炎の緊張感を伴った融合を見せている。
「あの光は、逆に水を映しているのだろうか」
 塔の高みから遥かに夜を見渡して、ひそかに呟いたのは、若き〈月光の神者〉ムーナメイズ・トルディンだった。
 今夜のヘンノオ町は曇っていて、風は肌寒かった。星も月も見えない。
「緊張の調和か……」
 ムーナメイズはそう言い残して、漆黒のマントを翻し、塔から姿を消した。
 冷え込んだ風が吹いて、一段と夜を深めた。
 


 10月19日− 


 恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、いつも何も言わずに手助けしてくれる〈あの人〉に、私は御礼の手紙を書いて投函した。

『ありがとう、ポストさん』
 


 10月18日− 


 薄曇りの朝は、空に面白い雲を探せない。そのかわり、並木道の木々の周りに散らばり始めている赤や黄色の落ち葉を見つけた。歩きながら、少し先の足元を指さして声をかける。
「だんだん秋らしくなってきたね〜」
 すると、私よりも頭ひとつぶん背の高いセアラは、穏やかな微笑みを浮かべて私を見つめ、軽くうなずいたのだった。
「ええ」
 友の、若くてみずみずしい黄金(こがね)の前髪が揺れた。

 それからしばし黙って、私たちは風と戯れる。もちろん、辺りを満たしている澄んだ空気とも。あちこちから聞こえる小鳥たちの歌声は本当に嬉しそうだ。
 私たちが住んでいる〈リース公国〉の公都、風吹く丘の〈リースの町〉にも、次の季節は確実に近づいてきている。

「昨日の夕焼けで、染めたみたいな色……」
 今度、先に喋ったのは、セアラの方だった。
 少しくすんだ黄色の落ち葉を、細くてきれいな人差し指で示して、彼女はゆったりとした口調で言った。それは不思議な形をしていた。雲も落ち葉も、それぞれ個性があるなあと思った。
 広い並木道は空いている。時折、町の誰かとすれ違う。こうして歩いてゆくと風になったみたいな清々しい気持ちになれる。

「秋の夕焼けは、特別だよね〜」
 私は応えた。


2006/10/18
 


 10月17日− 


 虹を丸めた七色のシャボン玉を、夜の空に架けました。星明かりでちらちらと瞬く光の粉は、懐かしい時の名残でしょうか。

 今宵私は、森で一番高い木の、空に近い枝に腰掛け、欠けた月の輝きを集めようと思います。それを組み合わせて銀の横笛を作り、涼しい夜風の音符を奏でましょう。

 爽やかに、そして、ささやかに。
 


 10月16日− 


(休載)
 


 10月15日− 


(休載)
 


 10月14日− 


(休載)
 


 10月13日− 


(休載)
 


 10月12日− 


 色々な芸術家が
 それぞれの腕を競ってる

 真っ青なキャンバスの上で
 白い雲の作品を――


2006/10/11
 


 10月11日− 


(準備中)
 


 10月10日− 


(準備中)
 


 10月 9日− 


(休載)
 


 10月 8日− 


(準備中)
 


 10月 7日− 


[実り]

 自然と人が

 時に手を携え、時にせめぎ合い――

 幾多の日々を紡いできた

 そして

 嵐の後の澄んだ青空の下で

 季節の物語の伏線は収斂し

 一つの頂点を迎えようとしている


2006/10/07
 


 10月 6日− 


(準備中)
 


 10月 5日− 


「見っけ!」
 少年の一人が、素早く茂みに手を伸ばした。
 ささやかな紫の秋の実が、枝先にいくつも見える。
 つまんでもぎ取り、口の中に運んだ。
「うめ〜」
 食べ終わった皮を、ペッと吐き出す。

 すぐに友達も真似をした。
「さっぱりしてるなー」

 道の幅が広がっているのは、付近ではそこだけだった。
 少年たちは再び縦一列に並び、森の尾根伝いの細い道――〈秋回廊〉を歩いていった。


2006/10/04
 


 10月 4日− 


[耳]

 霧の深い朝だった。
「おじいちゃん、何を聞いてるの?」
 背伸びをして少し首をかしげ、相手の〈耳〉を見つめて、少女は不思議そうに問うた。無邪気で好奇心旺盛そうな眼差しだった。
 立ち並ぶ木々の梢が微かにざわめくと、やがて重々しくしわがれた声が答えた。
「色々な声や、物音だよ」
「ふーん。この大きな耳で……」
 老人の硬い〈耳〉を華奢な手で撫でながら、少女は感心したようにつぶやいた。

 彼女は背中に翼の生えた、森の小さな精霊だった。
 話し相手の老人は、先端の枝が見えないくらいに背の高い木で、かつて切られた枝のこぶが〈耳〉に似ていた。
「私も、聞いてみたい」
 精霊は翼を休めて、古びた〈耳〉に腰を降ろした。
 老いた木は変わらず、そこにたたずんでいた。


2006/10/05
 


 10月 3日− 


 色違いのシーソーは
 手持ち無沙汰に誰かを待つ

 公園を見下ろす木々の葉は
 虫食いのある緑色だ

 淡い灰の光に透かし出されて
 葉は明るく、その骨が見え

 ゆうべの雨が置き忘れた
 わずかな水滴がこぼれる

 朝の食事を終えた紺色の男は
 ベンチからおもむろに立ち上がり

 反対から犬の綱に先導されて
 中年の女性が降りてくる

 階段を登りきると
 そこは小さな楽園だった

 薄曇りの空の下
 遺された緑の屋根がある

 魔法使いの杖のごとき
 複雑な枝は何を意味する

 木々はそれぞれの位置に立ち
 大地に永く根をおろす

 茂みから別の犬が現れ
 違う茂みへ隠れんぼする

 向こう側へ歩いてゆけば
 針葉樹の葉が頭を垂れる

 あの美しい繊細な造作は
 一体、何の産物か

 葉の一つ一つが
 それぞれ一本の木であるかのように

 丸い時計に促されて
 振り向きながら、その場を離れる

〜いつもと一本違う道に
  違う世界が待ってる〜
 


 10月 2日− 


(準備中)
 


 10月 1日− 


(準備中)
 




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