2006年12月

 
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2006年12月の幻想断片です。

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 12月31日− 


「はぁー」
 手袋の中に吐きだした息は、とっても白くて、温かだった。
 頭の上――ずっと上では、数えきれないお星様たちがキラキラおしゃべりしていた。半月と満月の間くらいのお月様は明るくて、天の高いところにいた。雲も出てるけど、多くはなかった。
 こんな、いつか見たことがあるような夜だけど、今夜だけは特別なんだ。普段なら眠っている時間だけど、あたしは外に出ていた。ちょっぴり眠いけど大丈夫。寒さはあるけど、なんだか清々しい寒さだった。それも今夜の持つ魔法の力なのかなぁ。
「お姉ちゃん、もうすぐかなぁ?」
 あたしは微かに震えながら、すぐ横にいるシェリアお姉ちゃんに尋ねた。その言葉も白く、夜の空のどこかに溶けていった。

「知らないわよ」
 お姉ちゃんは軽く言ったけど、顔はちょっとだけ笑ってた。
 そう、今日は特別な夜なんだ。静かで、厳かで、神聖で、懐かしさと新しい期待に満ちあふれた夜。今年と来年の橋渡し。
「そっか、ごめん」
 あたしも本気じゃなくて、軽い感じで謝った。

 その時、向こうの空で、まばゆい照明魔法が光った――。
 


 12月30日− 


(準備中)
 


 12月29日− 


(準備中)
 


 12月28日− 


(準備中)
 


 12月27日− 


 雪の花園――。
 その名は、その場所にふさわしく思えた。
 私はしばし立ちつくした。

 雪が降ると、翌日、真っ白な冷たい雪の花が咲き誇るのだ。なだらかな広い斜面に、雪の大地の上に。どのような仕組みでこうなるのは分からないが、木々の葉が落ちてうらさびしい冬の景色、冬野原の慰めででもあるかのように、曇り空の下で小さな純白の花々が咲き誇っている。ルデリア大陸の辺境で、私はまたひとつ、今に生きる〈伝説〉をこの目で見たのだった――。
 


 12月26日− 


[雨が森(1)]

 強い雨に打たれ、走りながら彼が叫ぶ。
「あの森だ! 入れば、雨も落ち着くだろう!」
 その言葉は粉々に分かれて、四方八方へ散らばった。
 むろん、私も走った。あの森へ駆け込めば、そこは天然の傘となって、濃い灰色の雲から降り注ぐ雨を防いでくれるはずだ。

 だが――。
 予想は全く裏切られた。雲は低く、雨は土砂降りで、そこらじゅうが川のようだった。雨は強まり、幹や葉を打つ。低いほうへと水が流れ、何度も足を取られそうになった。とっくに水浸しの靴で歩けば、激しい雨音に混じってカポカポと虚しく響いた。服の袖とズボンはまるで悪霊ででもあるかのように身体にまとわりつき、足が冷えて身体が震えた。その間も雨の衰える様子はなく、むしろ雨粒が叩きつける勢いは痛いくらいになっていた。
 彼の姿を追って、泥水の森で困難な小走りをしていた私は、極限状態の中、肉体と精神力の忍耐の限界を感じて叫んだ。
「駄目だ、なんかおかしいぞー!」
「ああ、雲が低い。森を出よう!」
 彼が応えた。以後、私たちは森からの脱出に全力を注いだ。

 あとから知ったのだが、それこそが、空の水を欲し、雲を吸い込んで喰うといわれる〈雨が森〉だったのだ。だが、その時の私たちは、残念ながらそんな知識は持ち合わせていなかった。
 


 12月25日− 


 西向きの浜辺のはるか遠くには、いまや今日最後の輝きをふりまいている橙の太陽を浮かべている。その光はまばゆく、水の上を連なっていた。それはまるで橙色の光の街道だった。
「あのお日様、次はどこで沈むの?」
 少年は《どこに》沈むのか、ではなく、はっきりと《どこで》沈むのか、と母に尋ねた。彼らの頬も夕陽の橙色に染まっていた。

 打ち寄せる波は静かだった。そこは海ではなく、広い湖だったのだ。額に手を当てて目を凝らせば、遠い向こう岸が見えた。
 冷えた風が流れる。少し考えてから、母はゆっくりと応えた。
「そうねぇ……次々と別の所に移動しながら沈んでいくのよ」
「じゃあ、じゃあ、すっごく速く走ったら、追いつけるの?」
 母に迫ったのは、先ほどの少年より一回り小さな弟だった。
「うん、そうねぇ」
 母は曖昧に笑う。それは彼女の口癖のようであった。

 幼い兄弟の影は長く伸び、逆光の中で本人たちの姿も黒い影法師になっていた。夕風で足跡の砂はさらさらと揺れ動く。
「太陽、待てー!」
 すると突然、弟は砂浜をがむしゃらに駆けだした。砂浜と言っても、幅は僅かばかりの、湖の砂浜だ。そこを幼い弟は駆けてゆく――狭い歩幅でも、ひたむきに。すると兄も負けじと、弟の名を呼んで走り出すのだった。小さな足跡が残っては消える。

 やがて荒い息で立ち止まった二人の兄弟の目の前で――と同時に無限の彼方で――巨大な輝きは水平線に触れた。
 立ちつくし、湖と太陽の接吻を見守る。沈み方は一定で正確で、思ったよりも速かった。今日の太陽が沈んでゆくという現象は《時》というものを視覚的に魅せる一つの物差しであった。

 母が追い付く。
 直後、ついに日は完全に没した。
 湖を渡る風が、いくぶん強くなった。

「今晩のおかず、なーに?」
「僕、おなかへった!」
「そうねぇ……何にしようかしら」
 西の空に太陽の置き忘れた橙色の残るうちに、彼らは昼間の遺りの輝きを集め、寒さに身を寄せ合いながらも楽しげに家路を辿った。背にした湖は、しだいに夜気につつまれていった。
 既に一番星は北東の夜空に、明るかった。

2006/12/19 桃浦駅・霞ヶ浦の夕景
 


 12月24日− 


(休載)

2006/12/24 有馬記念
 


 12月23日− 


(休載)

2006/12/23 横浜・氷川丸
 


 12月22日− 


(準備中)
 


 12月21日− 


(準備中)
 


 12月20日− 


(準備中)
 


 12月19日− 


(準備中)


2006/12/19 浜駅・霞ヶ浦の夕景
 


 12月18日− 


(準備中)
 


 12月17日− 


(準備中)
 


 12月16日− 


(準備中)
 


 12月15日− 


(準備中)
 


 12月14日− 


(準備中)
 


 12月13日− 


(準備中)
 


 12月12日− 


 遠い町の、空気の冷えた夜の出来事だった。色も強さも異なるたくさんの星たちは冴え渡り、町外れの峠はしんと静まり返っていた。
(このへんが近いな)
 数台しか止められない駐車場に車を停めてドアを閉める。降り注ぐ夜の冷たさは想像の範囲内だった。コートのボタンをかけて手袋をはめる。上へ昇りながら溶けていく吐息は白かった。
 駐車場の隅にある街灯を目指して、やや足早に歩き出す。峠の頂き付近の僅かな間だけ、なだらかになっている道の、私が来たのと反対車線の向こう側は崖で、町の明かりが銀色に沈んでいる。交通量は少なく、たまに車の音と光が走り去った。
 ここに来たのは訳があった。坂道を車で登ってくる途中、山の中にぽつんとクリスマスツリーのようなものが見えたからだ。いったい誰が、あんな峠に飾ったのか。何のために。
 駐車場の隅に着き、街灯の照らす範囲の様子を眺める。このへんに階段があれば、さっきのツリーにぐっと近づけるはずだ。

(続く?)
 


 12月11日− 


(準備中)
 


 12月10日− 


(準備中)
 


 12月 9日− 


(準備中)
 


 12月 8日− 


(休載)
 


 12月 7日− 


 色彩があり
 濃淡がある

 形状があり
 遠近がある

 位置を移し
 角度を変える

 時間(とき)は移り
 光線(ひかり)は変わる

 色彩は無限に変化する


2006/12/07
 


 12月 6日− 


(準備中)


2006/12/06
 


 12月 5日− 


 いつかの晩秋の日に、確かに登った〈あの丘〉は、いったい何処にあるのだろう……。

「あれっ」
 気がつくと、目の前からかなたに蒼く広がっていた空は、今や鮮やかな黄色に染まっている。
 すかさず時計を見る。まだ午後二時だ。
 遠く過ぎ去りし夏に比べると、夕暮れの波はかなり早く町を洗うようになってきたけれど、それにしても早過ぎる。
 そして私は気付いた。丘の上の銀杏の樹の葉が、見事な蒼に染まっていたことを。本来は空を漂うはずの、うっすらとした白い雲の模様もそのままに。

 私はしばらく立ち尽くし、秋の終わりの冷えた風にそよぐ木の葉たちの群れを眺めていた。
 見知らぬ人が横を追い抜いてゆき、ふと我に返る。
 私は再び、ゆっくりと丘を登り始めた。銀杏は蒼く、空は黄色い。そんな不思議な空間を感じ、全身で味わいながら進んでゆく。
 この丘を越えてしまえば、いつもの世界に戻れるような予感がしていた。だが、その時に後ずさりしたとして、この不思議な世界に再び巡り会えるという保証はない。
 私は真っ青な銀杏の葉を仰ぎ見ながら、自然と歩を緩め、やがて止まった。
 時計は午後二時半になろうとしていた。


2006/12/05

(続く?)
 


 12月 4日− 


(準備中)


2006/12/04
 


 12月 3日− 


「くすんだ青の溶液を入れ、光線で熱する。そうすると白い蒸気が溢れ出てきて、そのうち灰色になり、やがて激しく水を降らせる。それが治まる頃に強い光線を当てると粒子が七色に輝く」

「今度は薄い水色の溶液の上に、冴えた青の溶液を静かに注ぎ、冷却する。あまり白い蒸気は生まれず、溶液は美しい色を保つ。湿度を増やしながら冷却すれば、その時は蒸気が生まれ、やがて冷たい氷の粒子が舞い降りる」

「これが、いわゆる〈夏の空〉と〈冬の空〉だ」


2006/12/03
 


 12月 2日− 


 短い間にも
  光の角度が移り変わって
   緑や黄色が明るくまぶしく変化する

 こんな繰り返しが
  一年なんだと思う――


2006/12/02
 


 12月 1日− 


(休載)

2006/12/01
 




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