2007年 6月の幻想断片です。
曜日 |
月 |
火 |
水 |
木 |
天 |
土 |
夢 |
気分 |
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× |
△ |
− |
○ |
◎ |
☆ |
6月30日− |
岩の間から、ちょろちょろと湧いてきている。
確かにこれは、涌き水ならぬ〈湧き風〉だ――。
私は袋をかざし、せっせと袋に詰めていった。
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6月29日− |
雨粒が、下へ上への大騒ぎ――。
どうも今日は、風たちの虫の居所が悪いみたいね。
窓を隔てた向こう側は、嵐の真っ只中だった。きっと上空では突風が吹き荒れて、生まれたばかりの雨の稚児たちを容赦なく叩きつけ、ありったけの力で煽り、猛烈な勢いで吹き飛ばしているんだろうな。なすすべもなく、雨粒は落ちてくるんだろう。
とりあえず安全な場所で、劇を見るかのように、私は外の模様――風が雨粒という絵の具を使って描く数々のわけのわからない文字や記号や絵やら何やらに魅入っていた。
私だって、きっと同じような存在なのにね。ふふっ……。
家の木材たちは必死に足を踏ん張っている。
そのとき私は揺れたのだけど――私が笑ったから?
いいえ、鋭い隙間風が入り込んで、私を揺すったから。
木材を真似して踏ん張って、何とか身体を起こしたわ。私は辛うじて消えなかった。まだ、どうにか灯っていた。
そう、私は部屋を照らす小さなロウソク。家の人が食事に使うテーブルの上を、今は一人、微かに照らしている。
もちろん嵐は怖いわ。彼らは、傍観しようとしていた私を狙い、私を利害関係のある当事者にした。
嵐はとてつもなく強く、私は雨粒のように翻弄されるでしょう。
だけど、出来ることなら私はまだ燃えていたい。
遅かれ早かれ、ロウが尽きれば消える運命なんだけど、それまでは命の輝きを燃えていたい。
たわいのない願いだけど、それが真実なの。
おかしいかしら? ふふふっ。
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6月28日− |
[本の奥底に(1)]
みんなが寝静まった夜更け、空気には涼しさが染み込んでくる。木の匂いのする、この小さな部屋を照らしてくれる光といえば、十六夜(いざよい)の月あかり、無数の星あかりしかないんだ。辺りはかなり暗かった。けど、何も見えないほどじゃない。
僕はその古びた厚い本をテーブルの真ん中に置き、深呼吸をして気持ちを落ち着けた。木の椅子と床とが、僕の体重を支えてきしんだ。
僕はゆっくりと手を伸ばし、まずは上等な厚い紙を使った表紙をめくった。いにしえを感じさせる重厚な風が生まれ、部屋の夜気に吸い込まれていった。
僕はしばらく裏表紙を眺めていたが、再び厚紙をめくって表紙を確認する。そうさ、ずっとこの時を待っていたんだ。
それから僕は本文のページを繰る。だんだん〈その位置〉が近づいてくる。めくる度に、確実にページは減ってゆく。
ページをめくる速度とともに僕の鼓動も速まっていた。
そして、挟んでおいたしおりが視界に入ったとたん――。
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6月25日− |
[真夏の真冬(1)]
「確かに〈夏は暑い〉のが正しいけど……」
十六歳のリュナンはほっそりとした腕を伸ばし、風通しの良さそうな麦藁帽子を少し持ち上げた。淡い金の前髪がこぼれる。
「まあ、ここはカラっと暑いからね〜」
並んで歩いているサホが親しげに言った。
ズィートオーブ市は大陸の南西にある〈南ルデリア共和国〉の都だ。その中で、ここは歴史ある旧市街リューマ通りである。
今日も天気が良く乾燥している。光は強く、空は白かった。
「しょーがないさぁ、夏だもん」
日なたを歩いていて、健康そうに日焼けしているサホは重ねて言った。すると木陰を選んで歩いていた色白のリュナンは、蒼い瞳の夢見る視線を残念そうに弱め、こう答えるのだった。
「そうだよねー」
そのあとで、彼女はぽつりと言った。
「でも、一日くらい、涼しい日があってもいいのになあ……」
「うーん。まあねえ」
サホは曖昧に頷き、喉元まで出掛かった言葉を引っ込める。
(そうならそうで、ねむ、具合悪くなるんじゃないのぉ?)
居眠りの多いリュナンの愛称は〈ねむ〉である。
それからすぐに話題は移ったものの、サホの中には体の弱い友の望みがしっかり刻み込まれ、静かに根を張ったのだった。
《一日くらい、涼しい日があってもいいのにな》
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6月23日− |
「青い鳥は幸せになれるっていうけど……」
私はいったん言葉を句切り、それから続けた。
「本当にいたんだね」
青空のかなた、澄んだ水色を切り取ったかのようだ。
その小さな鳥を見下ろすと、相手は首をかしげた。
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6月17日− |
季節がうつろい
やがて時代が変わっても
人の営みは続いていくんだね
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6月13日− |
高らかな鳥の声が響き渡っている。小川に沿って、石畳で舗装された道が続いていた。辺りは森だが、それほど樹が密集しているわけではないので明るい。その森も長くは続かず、木々が途切れると、上の方に目指す町の赤い屋根たちが望める。
「やっと着くぜ」
額の汗を手の甲で振り払い、相棒が言う。
「そうだね」
薄曇りの空の下、僕は相槌を打った。
大きな門ではなく、少し城壁に沿って歩き、別の入口に向かう。川に架けた短い橋の手前で、衛兵に通行手形を見せる。
相棒が門番の兵に税金を払っている間、僕は開いた門の向こう側、すなわち町の方を見ていた。今度はどんな町なのかな。
「二人ぶん払っておいたぜ」
相棒が振り返って、ニッと笑う。
「ありがとう。あとで払うよ」
僕たちは歩き出した。風はほとんどなく、堀の役目を果たしている川の水には、三角錐の屋根の塔がくっきりと映っていた。
あの小さな門をくぐると、いよいよ街中に入る――。
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6月12日− |
空が本当に澄んだ場所は
水は深い碧となり
雪さえも水色に変わるのだろうか
彼の地には確かに
青き精霊が居たのだ
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6月11日− |
こぼれ落ちる砂
移りゆく影
流れてゆく水
時間はどんどん離れていって
手の届かない所へ――
時は金なりという言葉があるけど
思い出も時間も、お金では買えない
お金なんかでは量れない
時間は、時計で計るもの
思い出の重さで量るもの
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6月 7日− |
ひつじ雲の波が来て
夜の帳がおりたから
あいている場所に
銀の星をちりばめてみたんだよ
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