「でも、あんな所までどうやって……」
僕は茫然と立ち尽くした。目的の川は遥か下に見える。
緑の森はその川の左右に、幅広く広がっていた。太陽は川面を強く照らし、きらきらと光る。空は明るく青かった。
「今からじゃ、夕方にはとても間に合わないわね」
落ち着いた口調で姉さんが呟いた。諦めたくはないが、どうしようもない。道を間違えたのがいけなかったんだ。
「いや、だから大丈夫だって!」
変わった形の帽子をかぶった――というよりも、布を帽子代わりに頭へぐるぐる巻き付けた少年が目を輝かせた。
その態度に、こっちの方はあきれちゃう。
「だって、フオンデル(飛翔魔法)でも使うか、例えば鳥の魔物でも月光術で召喚しないと無理でしょ。この高さを降りるには」
目の前は崖だ。強い風が背中を押して、何歩か進めば、あっけなく冥界の底まで真っ逆さまだ。
「それとも風に乗るか、風になるか」
姉さんが遠い目をして静かに語ると、少年は笑った。
「はははっ。風が好きみたいだけど、あいにく、そのどれでもないよ。僕が使う方法ってのは」
「じゃあ何なんだよ」
僕はいらついて訊ねた。
「あんたら、ここに来たのは逆に運がいい。特別に船を出してやるから。さあ、行くよ! ついてきな」
少年が胸を張った。僕は姉さんと顔を見合わせた。
(続く?)
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