[朝の霧雨(1)]
霧雨の流れる朝、森はしっとりと湿っていた。曇り空の淡い光では、辺りはまだ薄暗い。
森に入った時点から、霧雨はほとんど霧そのものと化していた。雨になりきれぬ微細な粒たちが、風に任せて上へ下へと彷徨っている――頬と額に冷たい感覚を残して。木々は乳白色の泉に沈んだかのように見え、遠くへ行けば行くほど白い世界に見える。吹雪のような厳しさはなく、どこか柔らかな色合いだ。
濡れた草をまたぎ、大地を踏みしめて歩いていった。心なしか鳥の歌声がいつもよりも高らかに響いているような気がする。
その時、突然。
脳天に冷感が走った。
思わず立ち止まり、恐る恐る頭を撫でてみると、手に付いた〈それ〉は水だった。天を仰ぐと、木々の枝が複雑に伸び、それぞれ違う緑の葉が繁って、乳白色の霧に沈んでいるだけだ。
再び歩き始めてから考えた。あの細かな霧の粒子を、一体、誰が集めているのだろう。
葉に溜まった雫が落ちて来た訳だが、本当に葉だけが器として働いたのだろうか。誰か別のもの――例えば水の精霊、風の精霊、森の精霊――たちが協力しあって、深海の真珠のように木の葉に透明な宝石を形作っていったのではないだろうか。
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