[南の便(1)]
「南の便はありますか」
と声をかけたのは、森の中に生える背の高い木だった。
「今日はあと一本」
短く答えて通り過ぎたのは、森を巡る風の郵便集配員だ。
「ケール君、ちょっと来てくれんかな」
木が呼ぶと、少ししてから小鳥が飛んで来て、上手に枝にとまった。
「何?」
ケールと呼ばれた小鳥が首をかしげる。すると木は高らかに声を発した。
「すまんが、種を運んでくれぬか」
「おう」
小鳥は慣れた様子で木のウロへ飛んでゆき、クチバシで種を二つくわえて出て来た。
それから木の上のほうへ飛んでゆき、細い枝にとまって、大きな一枚の葉の中へ、丁寧に種を落とした。
「ありがとう」
木が礼を言い、小鳥は羽ばたきながら答えた。
「じゃな」
鳥が種を置いたのは、内側がかなりへこんでいる大きな葉だった。それはやや強い風が吹いても、種をこぼさなかった。
日が陰り、再び太陽が照った。風がそよぐと木々の緑は爽やかに揺れ動いた。地面近くでは白と黄色の蝶が舞い、シダは深く差し込む光を受けて輝いていた。
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