[夏の記憶]
夕食に繰り出すんだが、まだ他の仲間たちは降りて来ていない。シェリアと俺は、宿屋の前で手持ち無沙汰に立っていた。
「夏の夕日の向こうに……」
シェリアがつぶやいた。薄紫色の後ろ髪が、さらさらと揺れている。日焼けした頬は夕日の色に染まっていた。
ほどよい疲れが身体を重たくさせ、気持ちを逆に軽くさせる。
「ああ」
俺が適当に相づちを打つと、シェリアは言葉を紡ぎ続けた。
「この季節、色々な時間、さまざまな場所」
夏の夕暮れ時、知らない町の通りを風が通りすぎてゆく。
「そして、ずいぶん長い間会ってない人たちを思い出すわ」
あれはどこだろう?
故郷の小川、海の水しぶき、伸びていく入道雲――。
風にはためく舟の旗、雷雨、冷やした果物の瑞々しさ。
匂いも感触も薄れてくけど、見たものははっきりと覚えてる。
「秋になると、また違う記憶が蘇るけど……」
シェリアが喋り、俺はふと我に返った。
「確かに、そうだよな」
秋の思い出は追憶。夏の記憶とは一線を画すんだよな。
「ちょっと、遅いわよ〜!」
シェリアが急に大きな声を上げた。宿の玄関のドアを開けて、仲間のリンとルーグ、タックが出てくるところだった。俺たちはいつものように騒ぎながら、町の中心部へと繰り出していった。
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