[大波を越えて]
(どこまでも、どこまでも、黄金の波が続いている……と)
あたしはその言葉をよ〜く覚えておこうと思った。こんな場合じゃ、羊皮紙に羽根ペンで書くなんて、ゼッタイ無理だからね。
景色が上下に左右に、不規則に揺れ動いている。いやぁ、揺れ動いてるなんてもんじゃないわ。ガクン、ガコッて、乗り心地は最悪。まあ、しょうがないさ、あとで落ち着いたら書こうっと。
ちょっと年老いてくたびれた馬の引く、刈り取った麦を満載した荷台のすみっこに、あたしは木の壁に腕を絡めて落ちないように座っている。乗っけてもらってるんだから文句は言えない。
(どこまでも、どこまでも、黄金の……わっ)
石でも踏んだのかな、急にガクッて揺れた。こんな調子だから、頭の中であたしは喋りまくる。舌を噛むのはイヤだからね。
(でっかい農場だよね。うっわ〜、黄金の海だ!)
遠くから秋の風が吹いてきて、丘の穂が揺れ動く。感激して、思わず目がじんわりしちゃった。風の名残がちょっと沁みた。
空は薄曇りで、冴えない感じ。だけど青空の部分は澄んでる。さっきみたいに風が吹くと、北国の秋はちょっと寒いくらい。
後ろを向くと、髭を生やして帽子をかぶった中年の馭者は鼻歌を唄いながら機嫌良く荷馬車を御している。前を向けば――といっても、進行方向からすると後ろだけど――緩やかな坂をかなり上り、黄金の波は視界いっぱいに広がってきていた。
「ひゃっほー!」
あたしは、麦の中に突っこんでいた左腕を出して高く掲げた。
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