2008年11月の幻想断片です。
曜日 |
月 |
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水 |
木 |
天 |
土 |
夢 |
気分 |
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× |
△ |
− |
○ |
◎ |
☆ |
11月29日− |
秋の終わりを告げる風は
身軽だけど落ち着いていて
いつの間にか隣をすりぬけてゆく
いま、その視点を得た――
優雅で華やかであでやかな
赤や黄色が瞳に映える
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11月28日− |
子猫は身軽に垣根をくぐり
小鳥は自由に空を羽ばたく
小さければ小さいほど
無限に広がる世界
この気持ちを風に溶かして
高く遠く飛ばそう
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11月27日− |
透き通る風の紙を当てて
七色の雨を写し取れば
赤はドの音、黄色はレの音
またとない楽譜のできあがり
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11月25日− |
厚い雲の渦がぶつかり合って
途切れている藍色の空に
淡く鮮やかに浮かんでいるのは
二十七日(にじゅうしちひ)の細い月
星が輝きを失って
日が昇りきる寸前の
僅かな間に輝き渡る――
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11月24日− |
[凍えるような朝に]
風はなかったが、空気の澄んで凍えるような朝だった。空は灰色に覆われ、ほんの小さな隙間からは硝子を思わせる薄い青が覗いていた。
上着の襟を立てて足早に歩いていた、その時のこと――。
刹那、頬に冷感が走った。
それは生まれたての冬が初めて手を伸ばして触れたかのような、ある意味では無邪気な接触だった。
だが優しいだけではない、爪を立てるような鋭い冷たさが混じっていた。
(雪の子)
思わず小さく呟いた。それから首をもたげて遥か遠い場所に眼差しの行き先を送っていった。
見上げた空は何も答えなかった。私は歩き続けた。
その日、同じような冷感はなかった。けれど、あの一通の、ひとしずくの便りは、本物だったと信じている。
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11月23日○ |
[闇と黄金]
長い髪を揺らしてうなずき、オーヴェルは言った。それは決して強い口調ではなかったが、意志の強さが込められていた。
「さあ、見て下さいね」
言い終えると、その女性はほっそりした両手の指を組み合わせ、瞳を閉じて集中力を高め、静かに呪文を唱えた。
「ЖЩЛЫЭЮ……空を照らす陽の光よ、我に力を与えたまえ! ライポール!」
すると若き賢者の指先から白い光の珠が浮かび上がった。
「すごい……」
近くで見ていたシルキアは茶色の目を輝かせた。
その瞳が映していた光の球体は、オーヴェルが腕を掲げるのに合わせて、森の中、手に届かない高みまで昇っていった。
それは彼女が少しだけ表情を緩め、腕を卸していくと停まった。音もなく絶えずきらめきを放ち、地上に最も近い星となる。
光の球体は、闇につつまれた森の中で、黄金の葉を照らし出した。それは昼間よりもより鮮やかに、儚く浮かび上がらせる。
「シルキア、よかったのだっ。きれいな黄葉が見られて」
姉のファルナが言い、シルキアははっとした。
「お姉ちゃん……」
ここ三日、風邪をひいて寝込んでいたシルキアは、今日の午後になってようやく治った。その間も村の季節は進んでいた。姉はオーヴェルに頼んで、妹に最新の黄葉を見せてくれたのだ。
少しだけ潤った瞳を軽く拭いて、シルキアは明るく言った。
「お姉ちゃん、オーヴェルさん、ありがとう!」
闇の中の黄金は、ひときわ心の風景に刻まれるのだった。
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11月22日− |
まばゆい下弦の月が
夜空の窓のごとくに――
近づけば上り坂に沈みゆき
坂を登れば再び現れる
あの光の強さこそは
研ぎ澄まされた夜の不可思議
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11月21日− |
[夕焼けの数え歌]
「夕暮れひとつ、夕焼けふたつ……」
深い意味のない唄を口ずさみ、レフキルはゆったりと歩いていた。家々の遥か上、西の空は紫を帯びた紅に染まりつつある。それは鮮やかだったが、明るい南国には珍しく、ほんの少しの愁いを秘めていた。さながら、ふと立ち止まり、かつて失ったものを思い出すかのような――。
突如、通りの向こうから友達の声が聞こえた。
「レフキル〜! こっちですの〜」
「サンゴーン。どうしたの?」
レフキルが尋ねる間もなく、友は先を促した。
「話は後ですわ! できるだけ、急いで下さいの」
のんびりした友人なりの慌ただしさに促されて、レフキルはうなずきながら駆け出した。坂を登り、木々の間をくぐり抜けた。
日に日に夜が幅を広がる中で、昼はより〈魅せて〉くれる。
そこに広がっていた、ミザリア島の景色は――。
雲のある、深い紅に彩られた黄昏だった。
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11月20日− |
きれいで面白くて、思わず口元を緩めながら、しばらく見上げていました。木の葉が揺れると、色づいた赤や橙、黄色や茶色の間から、真っ青な空が覗くのです。
「風のいたずらかな」
私の長い金の後ろ髪を撫でて、涼やかな流れが通り過ぎます。公都リースの町に、今年も秋が舞い降りています。
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11月19日− |
[晩秋]
「山が、きれいだね……」
廊下の窓辺で、リンローナは足を止めた。少女の息はうっすらとした雪色で、十五歳の若い頬はいよいよ艶やかだった。
村の中ではやや高い場所にある宿に泊まった朝、見渡す景色は出来立ての贈り物だ。近くの山から遠くの山まで、稜線がはっきりとしていた。
「近いわね」
斜め後ろから声をかけ、立ち止まらずに廊下を歩き続けたのは姉のシェリアだ。
妹は振り返り、姉の姿と薄紫の後ろ髪が差し込む朝の光に玩ばれるのを目で追いながら、少し遅れてうなずいた。
「うん」
それからリンローナは再び外の景色に魅入った。澄んだ草色の瞳を輝かせて、深く刻まれた家の影や、氷のような青空、何かを詰んだ籠を手にして坂を下りてくる老婆をしばらく見つめていた。
窓のすぐ向こうの木からは、燃えるような朱い葉がひとひら、はらり、と枝を離れた。それは朝風の波に漂い始める。
「あんた、早く。みんな待ってるわよ」
級に廊下の向こうから姉の呼ぶ声がして、リンローナは我に返った。その時に手先が冷えていることに気付いた。
「いま……行く!」
そう答えてから、名残惜しそうに視線を左右に動かして、まぶたに焼き付けた。そして少女はそっと歩き出した。
身が凍えるほどではないが、凛とする晩秋の朝だった。
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