2009年 3月
2009年 3月の幻想断片です。
曜日
月
火
水
木
天
土
夢
気分
×
△
−
○
◎
☆
3月24日−
あの朝の冷たい山奥を
淡い真白に染めたものは
季節の名残の雪かしら
それとも冴えた星かしら
3月 8日−
「ゆうべ降ったんだ」
窓を開けて、セイス少年が言った。街路樹はうっすらと白い化粧をしている。冷たい空気が部屋に染み込んでくる。
セラーヌ町はやや内陸にある町だが、ラーヌ河の下流に位置するため地形は割合に平坦で、気候は温暖だ。森を開拓したあとに出来た草原が広がり、農耕・牧畜、そして大河ラーヌでの漁が盛んな町である。
そこに降った三月の雪は、淡くやさしく儚かった。
3月 7日−
[お目当ての品(1)]
「金物屋、靴屋、衣服に帽子、食器、それから八百屋に魚屋に……」
サホが指で差しながら歩く。広場には市が立ち、幾つもの露店が並んでいて客が行き来していた。
「へい、らっしゃい!」
「ほれほれ、手に取ってくれよ」
野太い男の声に混じって甲高い女の声も発せられる。
「いいもん取り揃えてるよ!」
「今日は貝が安いよ!」
世界最大の商業都市、ズィートオーブ市の旧市街は景気が良く活気がある。
「賑わってるね〜」
サホについて歩いているリュナンが楽しげな様子で呟く。
一方、サホは知り合いが多く、通り掛かる先々で呼び止められた。
「おいサホ、なんか食ってけよ!」
「後でね!」
日よけの簡易式の屋根が並び、明るい日差しが差し込む通路を、人を掻き分けながらサホとリュナンは奥へ進んだ。額や脇の辺りにしっとりと汗をかく、温かな春の午後だ。
人波を避けていた二人の嗅覚を、ふと甘い香りが撫でる。
「さあ着くよ」
サホが友に声をかけた。ほどなく白や赤、桃色や薄紫が目に飛び込んでくる。
そこは広場の中ほど、噴水を囲むように出店している花屋だった。
(続く?)
3月 4日−
まこと静まり反った、冷たい晩のことだった。
「ライポール!」
精神を集中して呪文を詠唱し、印を切ったシェリアの指先から光り輝く白い糸が生まれた。それは凝り固まって球体となり、宙に浮かぶ。シェリアはその視線を少しずつ上げていった。
光の中で幻想的に浮かび上がるのは、ふわふわと舞い降りてくる大粒の雪たちだ。
それは次から次へと続いて、やむことがない。
(時が……降り積もってる)
彼女は魔法で編んだ光の球をゆっくりと足元へ移動させる。
草は新しい雪を受け取って、緑の上に純白の化粧をしていた。息を吐くと温かく深い霧になる。シェリアは黒い上着の肩に星の紋章が増えていくのを確かめながら、しばらくの間、冴えた空気の中で降り積もる雪のさざ波を浴びていた。