2009年 8月の幻想断片です。
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8月 8日− |
[水の流れ、想いの道]
どこかで生まれた爽やかな風が、深いの森の緑をくぐりぬけ、高原の村を駆け抜けてゆく。サミス村に、今年もまた夏がやってきた。
夜更けの酒場には、麦酒と羊肉の匂いと、喧噪の名残が漂っている。ランプの光の中で片付けをする宿屋の娘、シルキアがぽつりとつぶやいた。
「今まで行ったことのない、新しい町に着いた時の……」
それはさっき話をした旅人の言葉だった。夏風に吹かれて、貴族や旅人や商人がサミス村にやってくる。村の界隈から出たことのないシルキアの好奇心は、この時期になると疼くのだ。
「王都メラロールとか白王宮って、どんな場所なんだろう?」
皿を運び、テーブルを拭きながら、シルキアは姉のファルナに問いかける。姉は立ち止まって、しばらく想いを遠くに飛ばす。
「大きな、きれいな建物、たくさんの人たち……」
そして姉は続けた。
「でもファルナは、だんぜん〈海〉の方が気になりますよん!」
「〈海〉かぁ〜。明日、お客さんに聞いてみようっと」
シルキアが言った。山奥生まれ、山奥育ちの姉妹にとって〈海〉は話に聞くだけの、夢のような場所だった。いつか砂浜に立つ自分の姿を想像して、二人はしばし立ちつくすのだった。
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