[光の季節]
「日が短くなりやがったなぁ」
歩きながらケレンスがぼやいた。町に入る頃、すでに陽射しはだいぶ傾いていたが、今や空は橙色に染まり、建物の陰影は深かった。冷たい風が流れ、夕方が腰を下ろしていた。
「もう暗闇ばかりの季節になっちまうのか。夏がひたすら恋しいぜ……」
ケレンスが夕焼け空の向こうに夏を描くと、隣を歩いていた少女が顔を上げた。
「きっと暗闇ばかりじゃないと思うよ」
言ったのはリンローナだ。うろんそうに見下ろすケレンスに、小柄な少女はこう続けた。
「あたし、冬は〈光の季節〉だと思うの。闇が深くて長い分、光を頼りにしなきゃいけないから」
「ふーん。光の季節、か」
ケレンスが興味を示して相手の言葉を繰り返すと、リンローナの表情は明るくなった。
「うん。早い時間から、おうちにランプがあかあかと燈るんだ。それをみんなで囲んで、お食事にするの。空には数え切れないほどのお星さまが輝くんだよ」
夢見るように語るリンローナに、ケレンスの口元もほころぶ。
「面白え考え方だな。リンらしいぜ」
「えへっ」
褒められた少女は、はにかんだ微笑みを浮かべた。
酒場の横を通りかかると、店員が入口のランプを灯すところだった。生まれたての輝きが、薄暗くなる町の片隅を照らした。
光の季節――。
それはもう始まっているのかも知れない。
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