[夏の水、太陽の風]
「ふぁ〜っ、冷たいっ」
靴を脱ぎ、石の階段に腰掛けて両手をつき、リンローナは流れゆく川に足を伸ばした。気持ちよさに思わず瞳を強く閉じる。
木漏れ日がちらちらと揺れているのが、まぶたを閉じていても感じられる。日陰を通り過ぎる涼しい風が薄緑の髪を撫でる。
むくんで火照った足が、鎮まってゆく――。
「おい、リン、流れんなよー」
ケレンスの声が背中の方から聞こえた。すると少女は目を開けて振り向き、階段の上に立つ少年をまぶしそうに見上げた。
「うん、大丈夫。これ、とっても気持ちいいよ。代わる?」
「そんなら私に代わってほしいわね」
ケレンスの横から現れたのはリンローナの姉のシェリアだ。
「お姉ちゃん、待ってね、今出るから!」
そう言ってリンローナは川から両足を引っ込め、地面を確かめて立ち上がると、丁寧に靴を履いて石の階段を登り始めた。
その時、強い河の風が吹いて、リンローナはよろめいた。
「あっ」
少女は短い声を発し、姉のシェリアは身を固くした。助けるためか、剣術士のケレンスは思わず敏捷な仕草で動きかけた。
だがリンローナは両腕を伸ばしてバランスを取ると、身軽に階段を登り切った。冒険者になりたての頃のひ弱な印象は、夏の日差しとルデリアの森と大地に育まれる中で薄れつつある。
「じゃあ、私が使わせてもらうわ」
ほっとした様子を隠して、シェリアは足早に階段を降りてゆく。日焼けをしたリンローナは、横に立つケレンスに微笑んだ。
「川も風も、あたしの大切な友達なんだ」
「おう」
「だから、大丈夫だよっ」
両手を後ろ手に組み、リンローナは仲間のルーグとタックの待つ大きな木へ歩いてゆく。ケレンスがその姿を目で追っている時、川の方からはシェリアの満足そうな声がするのだった。
「これ、いいわね〜」
折しも、森を駆け抜けてきた強い風が太陽を受けて川面を揺らし、旅人たちの心を運んで、どこまでも遠く流れていった。
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