[春風とともに]
後にした町の姿が、家々がしだいに遠ざかってゆく。
――歩く速さで。
吹き抜ける爽やかな風が、立ち止まる少女の髪を揺らした。
故郷の砂浜のように、草色の前髪は耳元でさらさら鳴った。
「広いなぁ……」
温かな日差しの中で、リンローナは額に手をかざした。
草原を風が駆け抜けてゆく。遙か遠くには山並みが連なる。
「メポール町の辺りとも違う、だだっ広さよね」
姉のシェリアが後ろから言うと、リンローナは振り返った。
「うん!」
この辺りは大陸中西部に勢力を持つ〈メラロール王国〉の内陸部に位置する。シェリアの思い浮かべるメポール町とは、ここから遠く離れた〈南ルデリア共和国〉の、街道が交わる草原の町だ。姉妹の出身地であるモニモニ町からほど近い場所にある。
「広さも、空も、その場所ごとに違った全く表情を見せる」
同郷の戦士ルーグが胸を張り、眩しそうに目を細めた。仲間のケレンスとタックも、それぞれの思いで風に抱かれていた。
彼らが再び歩き出すと、風は大地の呼吸であるかのように一瞬やんだ。しばらくすると今度は同じ方角に流れ始め、この道の先へ続く未来へ後押しするかのように一緒に歩き出した。
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