2011年 3月

 
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2011年 3月の幻想断片です。

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  3月19日− 


[春風とともに]

 後にした町の姿が、家々がしだいに遠ざかってゆく。
 ――歩く速さで。

 吹き抜ける爽やかな風が、立ち止まる少女の髪を揺らした。
 故郷の砂浜のように、草色の前髪は耳元でさらさら鳴った。
「広いなぁ……」
 温かな日差しの中で、リンローナは額に手をかざした。
 草原を風が駆け抜けてゆく。遙か遠くには山並みが連なる。

「メポール町の辺りとも違う、だだっ広さよね」
 姉のシェリアが後ろから言うと、リンローナは振り返った。
「うん!」
 この辺りは大陸中西部に勢力を持つ〈メラロール王国〉の内陸部に位置する。シェリアの思い浮かべるメポール町とは、ここから遠く離れた〈南ルデリア共和国〉の、街道が交わる草原の町だ。姉妹の出身地であるモニモニ町からほど近い場所にある。
「広さも、空も、その場所ごとに違った全く表情を見せる」
 同郷の戦士ルーグが胸を張り、眩しそうに目を細めた。仲間のケレンスとタックも、それぞれの思いで風に抱かれていた。
 
 彼らが再び歩き出すと、風は大地の呼吸であるかのように一瞬やんだ。しばらくすると今度は同じ方角に流れ始め、この道の先へ続く未来へ後押しするかのように一緒に歩き出した。

 
Romantische Strasse

リンローナ シェリア ルーグ
 


  3月17日− 


[明日への光]

「ルーゼリアの花みたいな空だねー」
 南の地方に咲く紅の花の名を挙げたレフキルの頬も、いまや赤々と染まっていた。東の空は美しい朱色の銀河となり、藍色に沈む西の空には星が一つ、また一つと生まれ始めている。
「明日を照らしてくれる輝きですわ」
 隣に立っている友達のサンゴーンがうなずき、目を細めた。
 二人の後ろ髪は、海からの優しい潮風になびいていた。

レフキル サンゴーン
 




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