2011年 4月

 
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2011年 4月の幻想断片です。

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  4月29日− 


[ふたりの春]

 並木の明るい緑は鮮やかに照っている。
「爽やかな風……」
 ルーユは立ち止まり、なびく前髪を右手で軽く押さえた。
 
 温暖なミラスの町は春の真っ盛りだ。あちこちで赤いルーゼリアの花が咲いている。甘い芳香を漂わす、華やかな種類だ。
 風は花の香りをまとい、まれに潮の匂いを含んでいる。広いレンガの道の両脇には貴族の別荘が建ち並んでいて、時折、馬車が通り過ぎてゆく。海に下りてゆく小径を横切れば、白銀にきらめき渡る海が、小さな漁船たちの白い帆が垣間見える。
「おはようございます」
 凛とした老婆がほうきの手を休めて挨拶し、頭を下げた。
「おはようございます。いい朝ですね」
 ミラス伯爵の娘であるルーユは歩きながら声を返した。
「もう、春の真ん中じゃからね」
 顔を上げた老婆が元気に言い、ルーユは優しくうなずいた。
「ええ、本当に」
 足音は律動的に続いてゆく。

 少女はたゆまぬ時を身に、老婆はたゆたう時を身に――。
 二人が交錯するとき、二人の時もまた交錯した。
 そしてミラスの春はまた少し広がり、深まってゆくのだった。

ルーユ
 


  4月18日− 


 池に映るまばゆい太陽の輝きは何枚もの光の皿となって、砕けて星となって、世界のすみずみまで広がってゆく――。
 




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