2011年 6月

 
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2011年 6月の幻想断片です。

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  6月30日− 


 遠くから見ると鏡のような川でも――。
 近づくと流れや波紋があり、確かに川も時も動いている。
 


  6月29日− 


[過去と未来]

 ドアを開けると、肉と酒、人の汗と熱気が入り混じった匂いがあふれだしてきた。薄暗い酒場の店内にはランプの焔がゆらめき、人々の影を床や壁に映した。
 若い男二人はカウンターの空いている席についた。

〈蝶は花を渡り
  鳥は枝を渡り
   人は町を渡る〉

 そう殴り書きされた紙片が、カウンターに残されていた。

 それを拾い上げたケレンスは、つまらなそうに紙片を横のタックに突き付けた。友がそれに目を通す間に、ケレンスは言う。
「海だって渡るしな」
「橋だってね」
 タックはあうんの呼吸で答えた。ケレンスは勢いづいた。
「それに人だけじゃなく風だって、季節だって、色々渡るよな」
「詩人先生が残した詩だな。よく来るんだ」
 カウンターの向こうから男が低く言い、一呼吸おいて聞く。
「ご注文は」
「麦酒ふたつ」
 ケレンスが即答する。

 いよいよ、夜が動き始めた――。
 


  6月28日− 


 強い陽の光
 思いの外に青い空
 影が濃い事――
 夏の花と
 色褪せてゆく紫の花
 


  6月27日− 


 昨日は、雨に濡れた煉瓦道。
 そこに今日は、光の雨が降る。

 光に濡れた道。
 渇いて、きらめいているよ――。
 


  6月26日− 


 遠ざかる祖母に、サンゴーンはほっそりとした腕を伸ばした。
「おばあ様……!」

 飛び起きると、祖母の姿は忽然と消えていた。
「夢、ですの」
 サンゴーンはベッドに上半身を起こしたまま、ぼんやりと部屋の中を見つめた。さっきの喜びと、改めて波のように訪れる喪失感が、心の奥底を塗り替えてゆく。一筋の涙が、頬を伝った。
 光と闇が曖昧になる曇り空の下、時はまた朝を迎えていた。

サンゴーン
 


  6月25日− 


 春の豊饒
 夏の夜風
 秋の新生
 冬の日だまり

 稀少さの放つ輝きに
 射ぬかれて
 運ばれてゆくのは
 あまたの人たち――
 


  6月23日− 


 大きな木の
 葉っぱの一枚ごとに
 一つずつ言葉を与えて
 物語を作ったけれど
 
 そこから飛び立った葉っぱたちの
 長い流転の経歴のほうが
 新しい物語を編み込むだろう――
 


  6月21日− 


 傘をさして
 雨粒とか光のかけらを
 転がしてみたよ

 いつか上手く混ざって
 虹の橋が生まれますように
 


  6月16日− 


 炎をまとう深紅の火の玉
 大地から生まれる土の弾
 そよ風を吹き出す風の珠
 
 ――があるならば
 
 湖の波紋を続ける水の璧
 
 ――も、どこかにきっとあるはずだよ
 


  6月15日− 


[七色の捜し物]

 白い光の畑に、灰色の雨が降り注いで。
 どこかで今日も、七色の虹が花を咲かせる。

 見つけるのは容易くないけど――

・見つけたい心。
・ちょっとずつの幸運。

 これがあれば、きっと大丈夫だと思うんだ。
レフキル・ナップル
レフキル
 


  6月 4日− 


[最後のまばたき]

 その時、瞳が重くなり
 眠りに落ちる寸前に
 あなたに見えた景色とは――

 あなたが思ったことは

 想像するしかないけれど
 それは一体、何だったろう

 
Good by, camera.
 




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