2012年 1月

 
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2012年 1月の幻想断片です。

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  1月23日− 


[影流る]
 
 震えながら、ふと振り向けば
 ふいに降りしきる、風雪の惣(ふさ)
 不思議な冬の浮遊物体
 
 ――光に照らされた白い道に
 いくつもの大きな黒い影が ふわり過ぎゆく――

 
ぼた雪の影流る宵
 


  1月16日− 


 ぼんやりした明るさに、ふと目を開ける。
 足下の白い砂は、星の石となり、きらめいていた――。
 


  1月14日− 


[月の雨]
 
 朝方に雨が上がり、雲が割れて空が広がってゆく。
 石畳の道のへこんでいる場所には水たまりが出来ている。
「よっと」
 ジーナは水溜まりを飛び越え、リュアは避けて通った。
「あっ、お月様」
 リュアが立ち止まって指さした。水溜まりには白い月が映っている。二人の少女たちがまぶしそうに空を仰ぐと、澄みきった浅葱(あさぎ)色の空の片隅に、沈んでゆく細い月が見えた。
「お月様には、湖のように雨水は溜まっていないんだね」
 不思議そうに呟いたのはリュアだ。海から流れる冷たくも凛々しい冬の朝風に、星明かりのような銀の前髪をなびかせる。
「……んー、ほんとだ」
 ジーナは少し考えた。太陽のようにきらびやかな金の髪が揺れる。その間に歩き始めたリュアが追いつき、追い越した。
「砂浜みたいに、水を通しちゃうのかな」
 すると早足で歩き出したジーナが、リュアと並んで言う。
「うー、わかんない。ちょっとは溜まってるかも? あたしたちに見えないだけで。この道だって、そんなに溜まってないし」
「そうだね。それに、光ってるから、熱いのかも知れないね」
 リュアの思いに、ジーナは自分の考えを重ねた。
「逆さまにした弓みたいな形。雨が桶みたいにたっぷり溜まりそうだけど……その秘密、テッテお兄さんに聞いてみれば?」
「うん」
 朝の光に柔らかな頬を輝かせ、リュアが小さくうなずいた。

ジーナ リュア
 


  1月 2日− 


[北国の難題]
 
「溶けない雪?」
 シェリアが聞き返した。相手の職人はうなずく。
「そうだ。お湯を掛けても溶けず、石のように残っている」
「事件の匂いがしますね……」
 タックが右手で眼鏡を掛け直す。リンローナは首を傾げた。
「魔法の力かなぁ?」
「そりゃ、そうだろうな」
 うろんそうに腕組みして言ったのはケレンスだ。リーダーのルーグは仲間たちに釘を刺しつつ、依頼者の男に呼びかけた。
「今すぐ判断するのは危険だ。話を詳しく聞かせて頂きたい」
 人も物の流れも滞る冬に、新たな冒険が幕を開ける――。

シェリア タック リンローナ ケレンス ルーグ
 


  1月 1日− 


[黎明]

 波音と風音が混ざり合い、通り過ぎてゆく。静かな朝だ。
「青い季節ですの」
 そう言って、サンゴーンが大空を仰いだ。黎明の天の世界は澄んでいて、薄い雲が漂っている。最後の星が帰ってゆく。
「確かに、青が一番青らしく見えるね」
 レフキルがうなずいた。白い太陽の光が照らす亜熱帯の南国の島も、この時期の朝は涼しい。浜辺の海鳥が飛び立った。
「もうすぐですわ」
 翻って、サンゴーンは東の方に向き直った。小さな丘の高みに広がっている空は、きらめきの黄金色に変わり始めている。
「いよいよ始まる。新しい一年が」
「無事に迎えられて、嬉しいですの」
 心底ほっとした様子でサンゴーンが控えめに右手を差し出すと、レフキルは自分の右手をしっかりと重ね、微笑んで言った。
「私もだよ」
「あっ」
 その時、強い輝きを目にして、サンゴーンはまぶたを閉じた。レフキルは左手を額に当てて、深い緑の瞳をきらめかせる。
 それは丘から顔を出した朝日だった。レフキルは胸を張る。
「新しい一年が、始まった瞬間だね」
「きっと、素敵な毎日が待っていますわ」
 少し震える声で語ったサンゴーンの目には、うっすらと七色の涙の宝石が浮かんでいた。少女たちはしばらくその場に立ちつくし、ゆっくりと大地を離れてゆく太陽の軌跡を見つめながら、心臓の鼓動のように寄せては返す〈時の波の音〉を聞いていた。

サンゴーン レフキル
 




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