[風の邂逅]
夏の森の木陰を、爽やかな翠の風が吹き抜けていった。下草が揺れ動き、木の葉がざわめき、木漏れ日がちらちら舞った。
「風って、長い尾っぽしか分からないね」
レイベルの問いに、ナンナは首をかしげる。
「え? レイっち、どういう意味かな〜?」
「あの風より早く飛べたら……」
黒い後ろ髪を微かに揺らし、レイベルは梢を仰いだ。
「風のお顔が見えるかな?」
〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜
「ひゃぁ〜っ! やっぱりぃぃ〜!」
ほうきにまたがったまま、上半身を屈めてうつむくレイベルの絶叫が虚空に響き渡った。太陽が左に右に、めまぐるしく移り変わり、そのたびに強い風圧がかかる。
「目をつぶってちゃ、見えないよ〜♪」
前の席でほうきを操るのは魔女の卵のナンナだ。碧の森と青い川が遙か下に見える。出発したナルダ村が遠く霞んでいた。
「風たち、速いなー」
ナンナは全力を挙げて速度を増すが、風を追い越すのは難しい。追い抜かそうとすると気まぐれに方向が変わったりする。
「風はすごいね〜♪」
諦めたナンナは飛ぶ速さを落とし、空を滑っていく。ほうきを握りしめる力を保ち、肩をこわばらせたまま、レイベルはゆっくりと目を開けていった。
「あっ、すてき……」
二人が飛ぶのと並行して、風をつかまえた茶色の鳥が翼を大きく広げたまま滑空している。たまに身体の向きを制御しながら、上手に風をつかまえていた。レイベルは言った。
「空の波に乗ってる鳥が、風の顔みたいだね」
「おぉ〜♪」
ナンナがよそ見運転すると、ほうきは大きく傾く。上空の澄んだ風を受けながら、レイベルは嬉しい悲鳴をあげるのだった。
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