[繋がる道、拡がる世界]
「私たちは、毎年、生まれ変わるのだと思います」
お茶のカップを置いて、賢者オーヴェルが呟いた。曇った窓の外につららが光り、青空はいよいよ青い。部屋には香ばしさが漂っていた。
「生まれ変わる……のだっ?」
ファルナが不思議そうに尋ねると、若き賢者は穏やかにうなずいた。街道の果て、山奥のサミス村に、春は未だ遠い。
「ええ」
彼女は窓の外を見つめた。白い雪と、空の青が混ざって見える。雪と雪空、雪と青空の景色は、青の日が増えつつある。
「うん。もうすぐまた、世界が拡がっていくよね!」
ファルナの妹のシルキアが期待に瞳をきらめかせる。
「雪解けが来たら……」
「雪解け」
繰り返したファルナは、じっくりとその言葉を受け止めるかのように、大きくまばたきをした。茶色の瞳が希望に彩られる。
ぬかるんだ道が現れ、乾き、しだいに雪の姿が小さくなっていく。森に、川に、湖に。山に、町に、王都に――道が繋がる。
凝縮された春と夏に、花が溢れ、木の葉が揺れ、鳥が羽ばたく。人は行き交い、笑い声が静かな山あいの村に響き渡る。
三人はそれぞれ、いずれ来る季節を思い浮かべるのだった。
|