2014年 6月

 
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2014年 6月の幻想断片です。

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  6月16日− 


[紫の夢(2)]

(前回)

 サホがしばらく言わずにいると、リュナンが問いかけた。
「雨は、透き通ってるけど……?」
「あ。ほんとは色があるのかな、って思って」
 ショートの赤毛を揺らし、サホは立ち止まって親友の顔を見つめた。リュナンは少し驚いた顔をしてから、楽しげに微笑んだ。
「あるかも。それって、どんな色?」
「そうね……例えば、こんな色っ!」
 サホが指さしたのは、道端に花開いた紫陽花の花だった。
「最初は白い花が、雨を受けて、青や紫に変わるんサァ!」
「おーっ! それいいねぇ」
 リュナンはしゃがんで、天が地上に置き忘れた〈紫の夢〉を見つめた。その時、ひゅうと涼しい風が通りを駆け抜け、制服の白いロングスカートを揺らし、紫陽花の花びらに踊る雫を払った。

「雨は紫、光は青。織りなす糸は、あじさいの花……あっ!」
 唱うように呟いたリュナンは、まぶしそうに額に手をかざす。
 雲が割れて、強い日差しが町を照り始めたのだった。二人の若い命が濃い影となって、大地に、この季節に刻印された。
 傍らに立つサホも腕を掲げ、指の隙間から、あふれ出す太陽の光を見た。雨は蒸発し、ひとときの霧となって町に拡がる。

 雨を浴び、光を受けて、いよいよ紫陽花はきらめいていた。サホとリュナンは視線を交わし、笑い合った。子供たちの歓声や鳥の歌声、遠い波音が――旧市街を満たし、彩り、祝福した。
 こんな日には、御褒美のような虹の橋が架かりそうだった。
(了)



 


  6月13日− 


[紫の夢(1)]

「雨って、透き通ってるけどさァ」
 学院の帰り道、サホが言った。すでに雨は上がり、空は少しずつ明るくなっている。濡れた石畳に、二人の足音が響いた。
「うん」
 並んで歩いている親友のリュナンが、ちょっと首をかしげた。ズィートオーブ市の旧市街には商店が連なっている。軒先からは時折、雨の残した想い出のように、雫がこぼれ落ちていた。
 口ひげを生やした背の低い八百屋の親父は、店の中にしまっていた野菜の籠を表に出し始めている。白いアスパラや菜の花、カリフラワーやパプリカ、トマトやバジル、その他もろもろ。





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