風の約束

 〜森大陸(しんたいりく)ルデリア・幻想結晶〜

 

秋月 涼 


 青空から降り注ぐ太陽の光は暖かかったが、雲の流れは速く、日が陰ると驚くほど涼しい風が吹いた。さきほどから吹いていた強い風が、緩やかな斜面に一面に広がっている草を揺らしていた。草は波のように首を垂れ、黄金の丸い実を揺らした。

「飛んでけっ!」
 彼女は両手を口に当てて、叫んだ。

 強い風に抗しきれなくて。
 あるいは、自らの意志で――なのだろうか。
 一つ、二つと、小さな実はついに風に乗って旅立ち始めた。

 その数は次第に増えてゆく。
 崖を越えて、つづら折りの山道を見下ろしながら。
 谷間の町の方へゆっくりと吸い込まれてゆく。
 雲に出たり入ったり、気まぐれな陽の光を浴びて、きらめく。
 大地を離れた草の実の流れは、あたかも黄金の雪だった。

「よ〜し、あたしも力になる。いくよ!」
 彼女がその場で身軽に飛び上がり、くすんだ黄色のブラウスの袖と焦げ茶色のスカートの裾がはためいた次の瞬間――。
 そこに居たはずの華奢な姿は、見えなくなっていた。

 新しい風が野原を駆け下りて、草の実を摘み、通り抜けた。
 たくさんの黄金の実を抱え、遠い平野の町に届けるために。

 彼女は秋風の一部であった。
 そして、秋風もまた、彼女の一部であったのだ。

(了)



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