太陽の器

 〜森大陸(しんたいりく)ルデリア・幻想結晶〜

 

秋月 涼 


 薄暗い骨董店の倉庫が、にわかに明るくなった。
「まぶしい……」
 リュナンは思わず手で目を抑えた。壷の蓋を抜くと、まばゆい光があふれてきた。まるで壷の底に太陽がいるかのようだ。
「これ〈太陽の器〉よ」
 サホが説明する。
「これを晴れた夏の日に外に置いとくと、光る水が溜まる。それは太陽の光の蒸溜水なんさぁ」
「お日様の光の、蒸留水」
 リュナンは顔をあげて、壷から神々しくあふれる光を改めて見つめた。
 やがてサホが毅然とした口調で言う。
「冬の、一番寒くて曇った暗い日に開ければ、きっと元気が出るよ。そのための光の貯金をしとこう」
「うん。ありがとう」
 壷にふたをして、リュナンは優しく、どこかはかなげな微笑みを浮かべる。
「夏が終わり、秋が過ぎて冬が来ても、夏は幻じゃなかったって分かるね」
「そうだよ」
 サホは相槌を打ちながら、リュナンの中ではこの夏の暑さもどこか幻に感じているのかなと、ふっと心が苦しく重くなるのを感じていた。
 風は凪ぎ、空気はからっとして暑かった。
 ズィートオーブ市の旧市街、オッグレイム骨董店には、夏の終わりの朱く澄んだ夕暮れの光が斜めに深く差し込んでいた。

(了)



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