[旅の終わりと旅の始まり]
 
  出発の朝が来た。タックが宿の支払いをしている間、俺とリンは表に出て、何となく後ろ髪を引かれて落ち着かないような、それでいて大地に根を生やして落ち着いているような、複雑な時をすごしていた。
  僅かな間、世話になった人たちの顔と、これから向かう空の青さが交錯する。
  
  この町にも別れを告げて、どのくらい遠く歩いてゆくのだろう。
  二度とは訪れないかも知れない、不思議と懐かしい町並みを見上げて――。
 
 「タック来たよ」
  リンの言葉でふと我に返る。タックの後ろから、宿のおかみさんがついてくる。
  時が一瞬留まり、俺たちは顔を見合わせて確かめる。準備が整ったこと、ここにいたこと、ここにいること。
 「行ってらっしゃい」
  おかみさんの声を背中に受けて、俺たちはしっかりと歩き始めた。
  
 
 
 
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