二日酔い 〜
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秋月 涼 |
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「うぅ、リン、水ぅ」 久しぶりの町でたらふく飲み食いしたケレンスは、翌日になるとひどい二日酔いになった。旅の疲れもあったのだろう。宿屋の一階の、風通しの良い場所にあるソファーに寝転がり、手の届く範囲に小さなテーブルを用意し、そこに水の入ったグラスを常備させている。朝食はもちろん気分が悪くて食べられず、頭痛は止まらず、聖術師のリンローナの看護を受けている。リンローナ自身は酒が苦手で、もともとアルコールを良く思っておらず、昨晩も何度もケレンスを諫めていただけに、あきれ顔である。 「もう。ケレンスは限度を知らないんだから……いくら何でも、ゆうべはお酒、飲み過ぎだよ! 何もいいこと無いのに……」 「リン、頼む、水、おかわり」 ケレンスは仰向けで目をつぶったまま、だるそうに手だけを伸ばす。普段のやんちゃさはどこへやら。むしろオジサン臭い。 「もーぅ」 リンローナはほっぺたを膨らませつつも、しぶしぶ井戸へ水を汲みに出かけた(セルフサービスの水汲みは宿屋の許可を得ている)。帰ってくると、水を充たしたグラスをテーブルに置く。 「はい、お水。あんまりひどいようなら魔法もかける?」 その時、通りかかったリンローナの姉のシェリアも、やはり同じような状態で少し顔は青ざめているが、動けるぶんケレンスよりも格段にマシであった。そして一言、ぽつりと感想を洩らす。 「あんたたちって、夫婦みたいねぇ」 「ふー?」「ふぅ?」 ケレンスとリンローナの声が重なる。実は、こういう冗談にはケレンスの方が敏感であり、彼はガバッと飛び起きると、シェリアの言動を否定すべく勢いを付けて立ち上がった。しかし二日酔いは重力となって彼の身体に襲いかかる。普段は誰よりも素早く駆け回るケレンスであるが、さすがに今は緩慢な動きであり、ついに頭を押さえると、そのまま再びソファーに倒れ込む。 「駄目だ……水」 「お水、持ってきたよ?」 「ありがと」 それを横取りしたのはシェリアであった。ケレンスの恨みがましい低音の呻き声が響き、リンローナはやむを得ず、もう一度井戸へ行かざるを得なかった。だが、彼女は先ほどまでの憤りの段階を超越し、困ったような笑顔さえ浮かべている。根っからの聖術師であり、この介抱に楽しめる部分を見つけたようだ。 「もう、ほんと、しょうがないんだから!」 外は太陽の光が溢れる。今日も暑い一日になりそうだった。 | ||
(了) | ||
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