特効薬 〜
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秋月 涼 |
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「ララシャ様、どうかお薬をお飲み下さいまし」 今にも泣きそうな侍女の声が外から聞こえるが、ララシャ王女は広い自室の頑丈なドアに籠もり、厳重に鍵をかけていた。 「ごほっ。うるさいわねぇ。何よ、こんな風邪ぐらいで大仰な」 「ララシャ様、お願いでございます。大切なお体にもしものことがあれば……とりあえず、このドアだけでも開けて下さいまし」 「うるさいわねぇ、しつこいわよっ! ごほっごほっ。苦い薬なんて、まっぴら御免だわ。帰ってよ! あたし、今、ものすごく機嫌が悪い、ごほっ、のよっ。不敬罪よ不敬罪よ不敬罪だわっ!」 さすがに怒鳴りすぎたのか、ララシャはふわふわのベッドに倒れ込み、咳き込んだ。身体は熱っぽくてだるく、頭は重かった。 若い侍女はしばらく部屋の前で立ち尽くし、途方に暮れていたが、突如として唇を噛みしめ、決然とした顔つきになった。 「仕方ないわ。お忙しいあのお方にはご迷惑だけれど、これもララシャ様のため。とっておきの最後の切り札を使いましょう」 そう呟きながら、侍女は長い廊下をそそくさと歩きだした。 一方、依然としてララシャの籠城の決意は岩のように堅い。 「健康の固まりみたいな……ごほ……あたしが、何で薬飲んで寝なきゃいけないのよ。風邪なんて、つかまえられるんなら、闘術でぶっ飛ばしてやりたいわ! っげほっ、げほっ、頭くる!」 それからわずか半刻ののち、心配そうに見守る兄のレゼル王子のかたわらで、侍女から風邪薬を受け取り、ベッドから上半身だけ起こして素直に飲み干したララシャ王女の姿があった。 | ||
(了) | ||
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