我ら、街道お掃除隊! 〜
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秋月 涼 |
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「どーも気が進まないわねぇ……」 シェリアの言い方には不満がありありだった。腕組みして首をかしげ、目を細めたまま右足のつま先を貧乏揺すりし、ぶつくさ呟いている。ルーグは困ったように顔を曇らせ、彼女を諭した。 「仕方ないだろう。当面の小銭稼ぎだ」 血湧き肉躍る冒険に巡り会う確率は、現実にはそれほど高くない。つなぎとして彼らが請け負った仕事は、メレーム町の大通りの並木道に積もった落葉の掃除という地味なものだった。 「こんなん、やってらんないわよ。一気に片づけるわ」 面倒臭さに耐えきれず、魔術師のシェリアは道の真ん中に立ちつくし、雑踏を気にせず精神集中して呪文の詠唱を始めた。 「塔ヨξйэ……我、天空の力・大いなる風を欲す……ヒュ!」 天空魔術がシェリアの指先から飛び出し、人工の木枯らしとなって落ち葉をぱっと舞い上がらせる。遠くから眺めると、それはまるで地上から沸き起こった赤や橙や黄色の時雨だった。 「きゃあぁ!」 とばっちりを受けたのは、ほうきで地道に掃いていたリンローナである。薄緑色の髪がくしゃくしゃになったのはまだ良かったが、お気に入りの茶色っぽいロングスカートの裾がひらひらと揺れ動き、ふわりと持ち上がりそうになってしまう。彼女はやむなくほうきを投げ捨てて、スカートを抑えなければならなかった。 「お姉ちゃん、やめて、お願い!」 妹の必死の悲鳴に気づき、シェリアは魔法を中断しようと指を掲げる――まさに、その直前であった。ケレンスはリンローナの状況を知覚するや否や、目を見開き、ごくりと唾を飲み込む。 「おろっ?」 これが混乱を増幅させる序曲となった。間もなくシェリアは風を止めたけれど、あまり反省の色を見せずに頭の後ろをかく。 「あら。ちょっとまずかったわねぇ」 「ケ……ケレンスの馬鹿あっ!」 リンローナの矛先は、事件の張本人である姉のシェリアにではなく傍観者のケレンスへと向かった。顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに叫んだ彼女は、あっけにとられるケレンスをよそにルーグの後ろへ駆け込むと、うつむき、黙りこくってしまった。 通りをゆく人々は思わず足を止め、何だ何だと好奇心を膨らませる。せっかくリンローナやタックたちが片づけた落ち葉の山は滅茶苦茶になってしまった。全ては水泡に帰したのである。 だがシェリアはそれに気を取られた様子もなく、ある一点を睨みつけていた。妹のリンローナが自分の恋人であるルーグを頼ったことが気にくわないのだ。状況は一気に複雑化していた。 「ま、待てよ、リン。違うっつーの」 「あんたら、早く離れなさいよ」 ケレンスの弁明が白々しく響き、シェリアはドスの効いた低い声を放つ。ルーグは戸惑い、リンローナは動転して気づかぬ。 「何だか面白くなってきましたねえ」 一人、微笑みつつ楽しそうに見守る盗賊のタックであった。 | ||
(了) | ||
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