おいしさの秘訣 〜
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秋月 涼 |
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「なんかなんか、いつも出来上がりが水っぽくなっちゃってたんですよ。だから今回、思い切って水を減らしてみたら、今度は水分が足りなくて、焼き上がりがカサカサで、すっごいマズいんですよ〜。リナせんぱーい、秘伝のこつを伝授してくださいよ〜」 元気で、やや落ち着きに欠ける十三歳の新入生に迫られた上級生のリナは、表情を緩めぬまま、ぽつりと言葉を発した。 「……最初は、みんな、そう」 「じゃあ、えっと、最初はリナ先輩も苦労したんですか〜?」 後輩の矢継ぎ早の質問に、寡黙なリナは軽くうなずいた。 「ええ。だんだん上手くなるから」 続きは、リナの頭の中で響いた。 『やってるうちに、分量とか、少しずつ分かってきますよね!』 『あたしも最初は失敗ばっかりの繰り返しだったんですよ』 『でも、いつも作ってるうちに、馴れちゃいました。えへっ』 『失敗した方が、きっと早く上達しますよね。ね、リナ先輩?』 いつまでも色褪せぬ、好奇心旺盛で知的で人なつっこい薄緑の瞳が記憶の中で笑った。その懐かしい顔を思い出すと、いつものリナの無表情にも少しだけ血の気が通うように思われた。 「失敗した方が、きっと早く上達するわ。がんばって」 あの子の受け売りだけど――その台詞は胸にしまっておく。 「ありがとうございます、リナ先輩。色々やってみますね〜!」 新入生の言葉に、昔なじみの後輩の声が重なり、告げる。 『ありがとう、リナ先輩。あたし、また試行錯誤してみますね』 「ええ。試してみて……」 まぶしい午後の光に目を細め、リナは助言をするのだった。 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ここはモニモニ町の学院内、放課後の料理研究部である。 | ||
(了) | ||
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