新しい世界へ 〜
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秋月 涼 |
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「見ろよ、どこまでも続く、あの白い砂浜を!」 筋肉質の太い腕を掲げ、体格の大きな若い男は大きな野太い声で言った。染み込んだ汗でやや臭っている皮の胸当てを着用し、腰には長剣を帯びている。顔や手は日焼けして浅黒い。 「はー。何を言ってるんですかー」 心からあきれたように言ったのは、全体的に小洒落た服装をしている十代後半の少女であった。首周りにレースの飾りが付いた薄桃色の半袖の肌着に、白のカーディガンを羽織り、黒の長ズボンを穿いて、両手を後ろ手に組んで立っている。背は高くも低くもなかったが、痩せ気味の体格で、横の戦士風の男性と並んでいると彼女は半分ほどの大きさにしか見えなかった。 甲板を駆ける潮風は涼しかった。二人の髪は揺れ、乱れた。 「なんて美しい景色なんだ……」 蒼く澄んだ深い海と、遠ざかる港町、浜辺の姿を一心に眺めていた頑強な男は、いつの間にやら瞳にうっすらと涙の珠を浮かべていた。感極まれり――とでも表現すべき状態であった。 「信じらんない。また泣いてる……」 他方、斜め後ろにいた年下の少女の方は、ますます冷淡になっていた。他の乗客と比べて、二人の反応は両極端だった。 白い砂浜は熱く燃え、蒼い海と渚には柔らかな波が立ち、中規模の川の河口には灰色の海鳥たちが憩っている。旅客用の帆船は陸からつかず離れずの距離を保ちつつ、微かな追い風を受けて帆を膨らませ、清らかで塩辛い海原を滑っていった。 雲から再び光がさすと、夏の太陽は見えない炎のかけらを散らす。細い少女は困惑気味に顔をしかめて、額に手を当てた。 「あたし、部屋に帰ってるんでー!」 「ああ。俺は海を見ている。その向こうに懐かしい町を重ねて」 男は震える声で語り、少女は手を挙げて降参の仕草をした。 「もー、ほんと付き合いきれないよ」 運命のいたずらで組まざるを得なくなった、格式に生きる古風で頭の固い涙もろい戦士と、冷静で自由を愛する少女が織りなす物語の中で――これはまだほんの序章の一つに過ぎない。 新しい世界が、今まさに二人の目の前に広がっている――。 | ||
(了) | ||
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