清らかな季節 〜
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秋月 涼 |
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「ほんと、気持ちいいねー」 リンローナは両腕を広げて公園の木々を見上げ、ゆっくりとその場で周りながら、うっとりした様子で目を細めた。その薄緑色の髪の毛は、まるで秋風にたなびく草のように軽くそよいだ。 「晩秋は、いい季節ですよねえ……」 足元に横たわる紅く染まった落ち葉を見つめ、タックが言う。レンズの抜け落ちた彼の伊達眼鏡のフレームは斜めからの淡い橙色の光を受けて鈍く光り、茶色の髪は今の季節になじむ。 「俺は夏の方が好……いててっ!」 ケレンスが言いかけると、急に強くなった風がかろうじて枝にぶら下がっていた木の葉を一斉に散らして、顔に叩きつける。 そろそろ朝晩の冷え込みが本格的になりつつあるメラロール市に、今年も各地を転々とめぐってきた冒険者たちはたどり着いた。これから冬が来ると彼らは一時的にここへ定住し、短期の仕事をこなしてゆく。新しい年が来れば皆の齢は一つずつ増えて、ケレンスとタックは十八歳、リンローナは十六歳になる。 空気が――空が澄んでいる。 「こういう日は、心まで透き通ってくる感じがするなぁ……」 メラロール市の中心部にほど近い広々とした公園の、とある池のほとりで、リンローナは大きく息を吸い込んだ。少しずつ夕闇が迫り、空は優しい薄橙色に少しずつ変わろうとしている。 「木々の紅葉のお手本のようですね、あの空は」 タックが呟くと、リンローナは振り向いて大きくうなずいた。 「そうだね、木々は真似してるのかも知れないよね」 今日のリンローナは、メラロール市に着いてから新調したばかりの、秋らしい装いに身をつつんでいる。ベージュの肌着の上に、やや渋めの黄色いシャツを着て、大きなボタンが可愛らしい黄土色のカーディガンを羽織っている。下は大人っぽいロングのタイトスカートで、濃紺の縦糸と白の横糸の綾織りだった。 「リン」 どぎまぎしつつケレンスが呼ぶと、相手は笑顔で振り返る。 「ん、なあに?」 「その服、割といいじゃねえか」 ケレンスの声はやや上擦り、目線は敢えて変な方を見つめている。額には何故か、うっすらと汗をかいており、鼓動は速い。 リンローナの瞳は嬉しそうに見開かれた。タックが補足する。 「たいへん気に入っているようですよ、ケレンスは」 「な、何だよ」 ケレンスの動揺を知ってか知らずか――。 リンローナは、この季節に相応しい清らかな口調で応えた。 「ありがとう」 赤い陽が池に映り、山の後ろに隠れてしまうと、風は急に冷たくなる。三人は一枚羽織って、当座の安宿に戻るのだった。 | ||
(了) | ||
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