思い出

 〜森大陸(しんたいりく)ルデリア・幻想結晶〜

 

秋月 涼 


「お姉ちゃんと、お母さんの話をしてると……お母さん、幻じゃなかったって思えるんだ」
 リンローナはそう言うと、ゆっくり息を吐いていった。肩の力が抜けてゆく。
「幻なんかじゃないわよ」
 姉のシェリアは小さく答えた。そっぽを向いているので、表情は読み取れない。
「私たちが思い出して、話題にしている間は、母さん、幻なんかにはならないわ。決して」
 シェリアは、今度は顔を上げてはっきりと言った。
(私たちが話題にしている間は――決して)
 その言葉をよく噛み締めてから、リンローナは頷くのだった。
「……うん」


 日がめぐり
 時代が代わっても
 残された人々は生き続ける
 残された物のなかで



 二人の娘を、天の高みから優しく見守る眼差しがあった。

(了)



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