ただいま改装中 〜
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秋月 涼 |
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「最近、青空が見えないね」 学院に続く並木道を歩きながらリュナンがつぶやいた。朝の風は涼しく、温かな長袖の服に薄手の上着を羽織っている。 「改装中だよ。あれ」 大した事はない――というような口調で言ったのは、リュナンの同級生でオッグレイム骨董店の娘、赤茶色の髪のサホだ。 「改装中?」 リュナンは不思議そうに首を傾げた。サホが説明を加える。 「うん。雲を敷き詰めて、見えなくしてるからサぁ」 薄曇の空の下、二人は並んで旧市街の石畳を歩いてゆく。 「あの裏側で、ドンドン改装作業をやってるわけ。季節によって店内の飾りつけとか、売る物をガラッと変える服屋みたいに」 するとリュナンは納得して、穏やかに楽しげに微笑んだ。 「あっ、そっかぁ。真夏の太陽の強い照明を、柔らかな光に取り替えたり……空の壁紙を、澄みきった蒼い色に塗り替えたり」 「ま、そういうこと。入道雲を片付けたりね」 同意したサホは、空を覆いつくす雲のカーテンを指差した。 「どっか探せば、あの曇り空に貼ってあるよ。ちっちゃい紙が」 「そうだね、きっと〈ただいま改装中〉って書いてあるんだね〜」 歩いてきて身体が温まったのだろう、さっきよりも血色の良くなってきたリュナンが嬉しそうに天を仰いだ。ほっそりした彼女に比べると、だいぶ薄着のサホは、元気良く右腕を挙げた。 「きっと、そうサぁ!」 | ||
(了) | ||
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