時の果実

 〜森大陸(しんたいりく)ルデリア・幻想結晶〜

 

秋月 涼 


 本来ならば色香漂う十八歳の女性であるネミラだが、今や服も髪の毛もボロボロになっていた。手袋も靴も泥だらけだった。
「やっと、やっと、やっとたどり着いた……」
 若干両目を潤わせながら、彼女はかがみ込み、樹の足元に右手を伸ばしていった。亜熱帯の地面には黄金色のいくつもの小さな丸い種が転がっている。それこそが求めてきたものだ。
「店長。これが〈黄金のなる樹〉の種に間違いありませんわ」
 助手のソアが言った。ネミラ同様、数々の危機で格好はくたびれているが、眼鏡の両目が異様なほど爛々と輝いている。
「やった……これでお店が一気に立て直せる」
 ネミラは無我夢中で〈黄金のなる樹〉の種をかき集め、持ってきた袋に詰め込んだ。袋が一杯になると二人は川辺に戻り、小舟に乗った。ソアの唱えた水の魔法で動き出すと、その後はさしたる冒険もなく、無事に妖しの無人島を後にしたのだった。

〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜

 シャワラット町の〈ウェルトン商会〉の裏には狭い畑がある。
「なかなか芽が出ないなー」
 毎朝水をやりつつ、仕事に精を出しながらネミラは待った。しかし一ヶ月経っても〈黄金のなる樹〉が芽を出す気配はない。
「店長」
 ソアが急に後ろから声を掛けたので、ネミラは飛び上がる。
「わっ、ソア。いたんだ。どうしたの?」
 驚かれたソアは全く表情を変えず、冷静に報告を開始した。
「〈黄金のなる樹〉の詳細が分かりましたわ」
「ほんと? ぜひ教えて!」
 期待に胸を膨らませたネミラに、ソアはこう言ったのだった。
「あの種が芽を出すのは、百年後だという事です」

(了)



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