(C)Ryo Akizuki
KeY: 急用

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 その時である。

 ガラガラガラ……。

 立て付けの悪いドアが大きな音を立てて横滑りし、

 一人の少女がその場に駆け込んできた。

「はぁはぁはぁ……疲れたー」

 リンローナは不思議そうに声をかける。

「メノア先輩。そんなに急いでどうしたんですか?」

「ごめーん、今日、急用が出来ちゃって。

 ほんと悪いけど、発表会休ませて」

「……どうしても、駄目なの?」

 サークルの代表、リナが訊ねた。

「リナ、ごめん。今度は絶対出るから!」

「……仕方ないね」

「じゃ、あたし、帰るから。みんな頑張ってね!」

 メノアは嵐のように去っていった。

 リンローナは腕組みをする。

「リナ先輩。代わりの審査員は誰がやるんですか?

 今日はメノア先輩の担当だったから」

 発表会の審査員は、最上級生が持ち回りで受け持つことになっている。

「どうしようか……」

 リナは遠くを見つめていたが、ふいにリンローナの方を向く。

「審査員、やってみない?」

「え? あたし、下級生ですよ?」

「実力のある人に審査してもらう方が、いいと思う」

「え、でも……」

 近くにいた同級生の少女は、作業の手を休めて言う。

「いい機会だよ。やってみたら?」

「お料理を作ってる途中で悪いけど、私は、リンローナにやってもらいたい」

 珍しく積極的なリナ。同級生も続ける。

「リンローナが料理作ったら、きっと一等だよ。

 たまには、審査するのもいいんじゃないかな?

 その方が、みんなの実力が拮抗して面白い発表会になりそう」

「お願い」

 リナに迫られ、リンローナはついにうなずく。

「……はい、わかりました。あたしの出来る範囲内で頑張ってみます」

 小さな学生食堂に、暖かい拍手がこだました。



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