何も見えない。 いや、視界に入るのは青白い霧だけ。 「やった、成功よ!」 「よかった……」 リンローナはシェリアの手をぎゅっと握りしめた。 魔力を融通した甲斐があったというものだ。 続いて、姉は照明魔法を唱える。 「ЖЩЛЫЭЮ……空を照らす陽の光よ、 我に力を与えたまえ! ライポール!」 霧の中に、おぼろ月のような照明魔法が浮かびあった。 「この光の回りに集まって、待機して!」 「ああ、今行く」 五人の冒険者たちは手探りで歩き、シェリアの回りに来て座った。 馬のひづめの音は大分近づいている。 「おい、どうなってるんだ」 「やられたぞ」 盗賊たちのとまどいの叫びが聞こえる。 「今から点呼するわね」 シェリアは照明魔法を消し、ささやく。 「ルーグはいる?」 「ここにいる」 「ケレンス?」 「いるぜ」 「タックは?」 「います」 「リンローナは、いるわね」 「うん」 「じゃあ、奴らが通り過ぎるのを待ちましょう」 見事な判断力と、的確な指示だった。 (お姉ちゃん、かっこいい…… あたしにはない、すごい能力を持ってる) リンローナは姉を尊敬した。 ……よろめきながら歩いているのだろう、 不規則な馬の足音が遠ざかり、大分時間が経った。 「もういいわね」 シェリアは立ち上がり、短い呪文を唱えた。 霧は急速に消え去り、もとの青空が広がった。 「ふう〜わぁ」 ケレンスは大きな伸びをする。 「お姉ちゃんのおかげで、無駄な戦いが避けられたね!」 リンローナは弾む声で言った。 「まあね。私に任せときなさい!」 シェリアは胸を張る。 「ところでタック。お願いなんだけど……」 「何ですか?」 「次の町に着いたら、新しい服を買ってもいいでしょ〜?」 「う〜ん」 会計のタックは悩んでいたが、結局は折れざるを得なかった。 「……仕方ない。今回だけの特例ですからね」 「やったぁーっ! タックくん最高!」 (いつものお姉ちゃんだ) リンローナは笑った。
★STORYs-ルデリアの全体像

