(C)Ryo Akizuki
KeY: 船酔い

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 白い帆がゆれる。

 まぶしい光は真上から注がれる。

「遠くに見える陸地……今、どのへんなんだろう?」

 マストに寄っかかり、リンローナはつぶやいた。

(そうだ、船乗りのナホトメさんに聞いてみよう)

 さっそく大声で呼びかける。

「ナホトメさーん?」

 波のざわめき。

「ナホトメさーん、どこにいるのー?」

「ナホトメなら、マストの上にいるよ……」

 そう言って後ろから現れたのはルーグだった。

「ルーグ、どしたの? 顔が青ざめてる!」

「相変わらずの船酔いさ……。

 全く、情けない」

「そんなことないよ」

 リンローナが言い終わるや否や、船が大きく傾いた。

「きゃっ」

 すかさずマストにしがみつく。

「ぐわああっ!」

 ルーグは奇声をあげ、片膝をつき、頭を抱える。

「オエェェ……」

「大丈夫?」

「駄目だ……すぐにでも吐きそうだ」

「無理しないで。今すぐ、酔い止めの魔法、唱えてあげる」

「それ、前にやってもらった時は

 あんまり効果を発揮しなかったのだが……オエッ」

「だけど、やらないよりましだよ。事態は深刻だって!」

「……すまん」

「じゃ、いくね。

 ΘЛЧΣПヱ……風の精よ、この胸のもやもやを消し去りたまえっ!

 オブレーム!」

 リンローナは両手を天に掲げ、続いてルーグの胸に当てる。

 しばしの静寂、潮の香り。

「どう?」

「せっかくやってもらっのに心苦しいが、どうやら駄目らしい。

 ちょっと向こうに行って来る」

 ルーグは船の端まで歩いていくと、海に向かって……。

「おかしいなぁ」

 それを見て、首をひねるリンローナ。

 大きな間違いに気がついたのは、それから一週間ほど後のことだった。

「あっ!」

 狭い船室で聖術の本を読んでいた時、思わず大声をあげてしまう。

「何よ、うるさいわね」

 姉のシェリアは不満げにつぶやいた。

「ごめん。ちょっと気になることがあったから」

 さて、リンローナはそのページに釘付けになる。



《聖術・オブレーム》

呪文:ΘЛЧΣПヱ……風の精よ、この胸のもやもやを消し去りたまえ。

効用:精神安定魔法。ストレスを和らげる。持続期間は半日程度。

補足:ストレスを完全になくすことは不可能。あくまでも「和らげる」のが目的。

注意:この魔法は「精神的な」もやもやを取り去る。船酔い等には効果なし。



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