2000年 2月


2000年 2月の幻想断片です。

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  2月29日− 

 遠い遠い空の下で、赤いお花が咲きました。
 蝶や蜂の駅となって、野原一面、咲きました。
 子供の兎が飛び回り、疲れて野原で眠ります。
 赤い花の仄かな香り……兎の子へ届きました。
 


  2月28日○ 

 闇さえも凍る夜。銀色の星団が彼を迎えに降り立ち、そして彼は時空の果てへ飛び去った。
 


  2月27日◎ 

「また、会えるといいね」
「また会いたいですよん」
 別れ際、リンローナとファルナはしっかり手を握った。
 


  2月26日− 

 冬の森を駆けていた白兎が、遠くの方で雪と混じって見えなくなった。
 


  2月25日○ 

 風が見えたらいいのにな。
 風が見えたら、風を集めて、風合戦しよう。
 


  2月24日○ 

 しんしんと雪の降り積もる静かな晩、一人の老婆が暖炉の近くで編み物をしていた。
 


  2月23日△ 

 雪深いノーザリアン公国のヘンノオ町で、融解魔術を巧みに操り、月光の神者ムーナメイズが道端の雪を溶かしていた。
 


  2月22日△ 

 崖っぷちにある見晴らし台から小さな花束を放ると、一瞬、私の視界全体を白い花びらが覆いつくし、やがて散り散りに消えていった。
 


  2月21日− 

「月の花をください……」
 長い金髪の乙女が、透き通った青い眼で訴えた。
 


  2月20日− 

 雪に浄化され、静まり返る楡(にれ)の林。
「お姉ちゃん、どこ?」
 妹のシルキアが呼びかけると、やがて一本の樹の陰から姉のファルナが顔を覗かせた。
「ここですよん」
 


  2月19日△ 

 空から、七色に輝く雪の天使たちが降ってきた。
 


  2月18日− 

 風に吹かれて舞い上がり、横に流れる粉雪たちは、みな美しい心を持った冬の精霊だ。
 


  2月17日○ 

「ここの空気へ種を蒔くと、地面と同じように芽が出ます。空気が地の属性を帯びているんですよ」
 森の奥にある洞穴の中は可愛らしい草花でいっぱいだった。テッテの説明を聞きながら、ジーナとリュアは好奇心で瞳を輝かせた。
 


  2月16日○ 

 牧場の昼下がり。羊飼いの少年が吹く高らかな口笛は、野を越え山を越え、どこまでも流れていった。
 


  2月15日◎ 

「あ〜あ。つまんないわねぇ……」
 ミザリア国の王女ララシャは、何の変化もない王宮の中庭を、豪華な自分の部屋から退屈そうに見下ろしていた。
 


  2月14日○ 

 月の親父を知ってるかい? あいつはね、細いバナナに空気を吹き込み、半月かけて丸いレモンを作るんだ。そうやって作った巨大なレモンを、また半月かけて、そっくり全部たいらげちまう。食いしん坊だけど憎めない月の親父だ。
 


  2月13日○ 

 居眠りばかりしていて、ついに〈ねむちゃん〉という愛称をつけられてしまった十六歳のリュナンは、春の日射しが迷い込む窓辺でいつしか舟を漕ぎだした。
 


  2月12日− 

 五年前……二十歳だった頃。
 レイムル町役場での仕事中、物思いにふけっていたシーラの横顔がひどく寂しそうだったので、同期のミラーは声をかけた。仕事が終わり、二人は丘の方へ散策に出かけた。
 


  2月11日− 

 馴れた手つきで老人が空にはさみを入れると、水色の薄い布地がとれた。刻々と変化する雲の模様が美しい。
 


  2月10日− 

 だだっ広い草原のはずれに、一枚のドアがあった。あと少しで触れられそうな瞬間、私はいつも目覚めてしまう。
 


  2月 9日○ 

 息つく間もなく渦巻いている巨大な火炎に、細くて激しい水流がそそぎ込んだかと思うと、氷を秘めた突風が冷酷に吹き荒れ……その間にも月の光がきらびやかに錯乱し、同時に夢の元素が妖しく広がりわたった。果てしない神の魔力で次元がねじ曲がった、永遠に続く〈魔源物質〉だけの世界。
 それが魔源界である。
 


  2月 8日− 

 剣術道場の練習試合。
「トオ、トオ、トオ!」
 木刀で襲いかかってきた父の激しい攻撃を、息子のケレンスはやはり木刀で巧みに受け止めた。
 


  2月 7日○ 

 純白の美しい毛並みをした天馬が夜空を渡っていった。流れ星に似た彼の軌跡が、漆黒にいつまでも残っていた。
 


  2月 6日− 

 小さな足跡が新雪の上に延々と並んでいた。ファルナとシルキアは胸を弾ませ、銀世界を歩み始めた。
 


  2月 5日○ 

 星が光り、風が流れた。
 そして風が光り、星が流れた。
 


  2月 4日− 

 出窓を開けて見下ろせば、幼い頃の僕がいた。
 紙風船に希望を乗せて空へ放った日は遠い。
「けれど、あの日の夢たちを忘れずに歩き続けよう」
 僕は静かにつぶやいた。

 紙風船を背に乗せて、どこまでも風は流れていった。
 


  2月 3日◎ 

 作業の手を休め、初老の職人は顔をあげた。
「ここでの一瞬は永遠であり、ここでの永遠は一瞬だ」
 いつしか僕は〈時間をなくした村〉に迷い込んでいた。
 


  2月 2日− 

 吐息も凍る初冬の朝。ファルナとシルキアの姉妹が見ている目の前で、霜柱たちが行進を始めた。
 


  2月 1日△ 

 贈り物を机の上に置いたあと、今日の一部始終を思い出しながら、リンローナは暖かな気持ちでベッドに潜り込んだ。