2009年 6月

 
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2009年 6月の幻想断片です。

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  6月28日− 


[いずこも同じ]

「めんどくさいわねぇ」
 そう言って髪を掻き上げるのがシェリアの癖だ。
「仕事なんて、めんどくせーもんだろ?」
 悟ったかのように問うと、目の前の女魔術師は俺の方を鋭く睨みつけて、胸を張り、こんな事を言ったのだった。
「知ってるわよ。だけど一言言わなきゃ気が済まないわけ」
「うん、そうだよ〜。お姉ちゃんは分かってるよ」
 シェリアの妹のリンローナからも反撃に遭い、俺はふてくされて、ついこんなことを口走ったのだった。
「何だよそれ。めんどくせぇ奴だなぁ」
 


  6月27日− 


[風の種]

「何をしたの?」
 彼女が何かをふりまいたので、見上げた僕は訊ねた。
「風の種を蒔いたの」
 そう言ってから、彼女は枝に腰掛けたまま足を組み替えた。白いスカートが揺れ動いた。
「えっ、風って種から生まれるの?」
「種から生まれる風もあるわ」
 彼女が答えた。その言葉自体、一つの微風だ。
「そう。来年の今ごろ、きっと強い風になって帰ってくるわ」
 僕は種の飛ばされていった森の果てを見つめた。
 それは時間という河の、未来という名の方角だった。
 


  6月16日− 


 赤紫の黄昏を思うように
 冴えわたる朝を願うように
 灰の空から色を掬って
 紫陽花は鮮やかに染まる――


2009/06/14 紫陽花
 


  6月 5日− 


 光の絨毯を敷いた朝に
 東の空の果てで

 森の碧のカーテンを見下ろし
 翼をはためかせて腕組みをする

 翼人(よくじん)はどこにいるのだろう――
 


  6月 1日− 


 あの日、記した言葉が
 雨に打たれ、風に吹かれて
 だんだん薄くなってゆく

 けれど、どんなに薄れても
 消えてしまうことはない

 だから私は今日この日にも
 ページを繰って記憶を記す
 胸の奥の、心のノートに
 




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