今年最後の夕焼けが、空を橙色に染めていった。
「どうしたの? 真面目な顔して」
横顔を夕日に照らされたリンが、隣から俺を見上げた。
「別に……なんでもねぇよ」
言葉は硬く響いた。普段は軽薄に思われている俺でも、こんな日くらい、ちょっとだけ厳粛な気分になったっていいだろう。
リンは軽く息をついてから、明るい声で訊いた。
「ケレンスにとって、今年はいい年だった?」
森の遙か上に広がる澄んだ空を雲が流れていく。赤に移りゆく空を、俺は仰いだ。そろそろ一番星も見えるかも知れねえ。
「そうだな……」
色々な町を思い出す。遠く見上げた王宮、神殿、宿、商店、屋敷、農家、関所、港、冒険者組合、水車小屋、畑、森――。
さまざまな人と、物語と出会い、そして別れた。
そこにはいつも、変わらぬ仲間たちがいた。
長いつきあいの腐れ縁の諜報者タック、真面目なリーダー・戦士ルーグ、魔術師のシェリアと聖術師のリンローナの姉妹。
そして俺の意識は、過去から現在に戻ってくる。
「……ああ。いい一年だったぜ!」
「あたしも!」
リンは少しだけ瞳を潤わせて、うなずいた。
その時、後ろから小声がした。
「手ぐらい繋いじゃえばいいのに」
「いい雰囲気だな」
「しっ。バレますよ」
俺は顔をしかめつつ、指をポキポキッと鳴らした。
ゆっくりと振り返っていく。
「おう、そこで何してるんだ、ルーグ、シェリア、タック?」
「えっ」
リンが呆然として立ちつくすのを横目に、俺は戦闘モードだ。
「お前らー、見世もんじゃねぇぞ」
「見世物よ!」
シェリアが笑って言い放ち、宿の方に駆けだしていく。ルーグとタックも追った。
「待て、お前ら!」
俺が素早く地面を蹴ると、背中からリンの呼ぶ声がする。
「ちょっと、待ってよぉ〜!」
これが、今年最後の日。
暮れゆく町に、暮れゆく年に――。
俺たちの足音が近づき、遠ざかっていった。
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