[夕暮れの中で]
ルォーンォォ、ルォーンォォ――。
ラニモス神殿の〈時の鐘〉が夕方の数だけ鳴り響き、マツケ町の隅々にまで届いていった。その頃、町外れの海沿いの道では、十数人が規則的に――時に不規則に土煙を上げながら駆けていたが、その鐘の音はよく聞こえた。
「走るのは同じ時間でも、夕陽が早くなったっすね~」
闘術士のユイランは一緒に走っているメイザに話しかけた。額には汗をかいているが、息はあまり乱れておらず、まだ充分に余力がありそうだ。
その十九歳の若く溌剌とした横顔を、間もなく今日のフィナーレを迎える北国の秋の夕陽が赤々と照らし出している。
「夕陽、駆け足になってるのかな?」
先輩のメイザは前を向いたまま答えた。その言葉は短かったけれど、走りながらにしては丁寧な口調の返事だった。
「空気、冷えて来たから……ですか?」
後輩のマイナがやや苦しそうな呼吸の合間に、途切れがちに言った。するとユイランが納得した様子で答えた。
「おー、そうかも。太陽もきっと寒いんだよね」
その間にも、やや高さのある夕暮れ色の波が、誰もいない北国の浜辺に打ち寄せている。波音は単調なようでいて、まるで鼓動のように、同じ音は二度と響かなかった。
「遅れるなよー!」
突如、闘術士たちの列の先頭から鋭い声が発せられた。二十代半ばの女性ながら、ユイランたちを指導・統括するセリュイーナ師匠の声だ。遅れずに弟子たちも鋭い声を返した。
「ハイっ」
ユイランと先輩のメイザ、後輩のマイナは、師匠の言葉からしばらくの間は無言で走っていたが、やがてメイザが口を開く。
「冬になると……」
そこで渇いた唾を飲み込んでから、彼女は続けた。
「お日様、寝坊するよね」
「おっ。そっか」
意外な指摘に、ユイランは走りながら顔をほころばせる。
「確かに、冬は、そうっすよね」
「あんなに熱そうな太陽なのに」
メイザが言い、額の汗を手で拭った。二人の会話を聞いていた後輩のマイナはかなり苦しそうで、喋らずにうなずいた。
まもなく今日の陽が水平線に触れようとしていた。海はいよいよ一面の炎のように赤く燃え、冷たい北の波が打ち寄せた。
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