「文化、なんてのは、俺にはよく分からねえけどさ」
夜空に舞い上がる炎に横顔を赤く照らされ、ケレンスが言う。
「こうやって、世界をあちこち旅して回ってみると、何となくだけどさ……昔よりも、ほんのちょっとは分かる気がするんだよな」
焚火の火の粉は飛び跳ね、パチパチと弾けて燃えはぜる。
「文化に上下はねえ。どんな都会だって、山奥の村だって」
涼しい風は迷わずに森から森へ通り抜け、広場の炎を焚いている。それを囲んで、人々は祈りを捧げる。豊作を願う祭りだ。
「いいやつも、悪いやつもいる。それは、どこだって同じだろ?」
どんな宝石箱よりも美しくきらびやかな夜空を、彼は仰いだ。
「北国には北国の、南国には南国の木が育つようにさ」
炎に揺らめく、幽霊のような薄い影が大地を彷徨っている。
「風も、空も、光も、森も。唄も、絵も、踊りも、祈りも。鍛冶屋も、漁師も、農家も、貴族も……。命の糸? で編んだ網に引っかかり、調和してるのが、それぞれの文化なんじゃねぇか?」
言い終わると、恥ずかしそうにそっぽを向いていた彼であるが、最後は視線を斜めに向けて、鼻の頭をこすりながら呟く。
「文化の精神……人の心は、どこも変わらねえ、ってことさ」
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