[春の海]
潮の香りが漂い、あまたの光の精霊が水面で踊っている。
「風が、ゆるくなってきたね」
青い海を渡る風に前髪を濯ぎ、レフキルが笑った。南の空から降り続いている強い日差しを受け、額に手をかざしている。
「波も、楽しそうですわ〜」
指さしたサンゴーンは、近づいてくる幾つもの波を避けながら白い砂浜を歩いていった。遠浅の、紺碧の海が輝いている。
「あっ」
鮮やかな赤い花を指さして、サンゴーンが言った。砂浜が尽きて茶色の大地に変わる場所に、背の低い木が生えている。
「咲いてますの! 春を告げる、ラヴェラのお花」
亜熱帯のイラッサ町にも冬はある。曇り空と冷えた海風の日々は、巡り来る時の流れに乗って、過ぎ去ろうとしていた。
「この花は告げてる。あたしたちの、新しい物語の始まりも」
レフキルが言い、白い雲の浮かぶ蒼い空の高みを仰いだ。
寄せては返す波が時を洗い、二人は明日に歩み続ける。
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