[交錯の時]
深い針葉樹の森を見守るように、薄蒼の空が拡がっている。冴えた春風に乗って、低い灰色の雪雲が漂っていた。
地上では、雪の欠片と白い花びらが混じり合いながら飛んでゆく。山奥の村の通りを歩いていた姉妹がはしゃいだ。
「こっちは雪!」
妹のシルキアがひとひらの冷たい結晶を掌に掬い取り、姉のファルナは早春に咲いて散った花びらの温もりを握りしめる。
「こっちはお花なのだっ!」
柵に沿って緑のベアラオフの葉が開き、すずらんに似た花を咲かせている。もう少し経てば、食卓にはホワイトアスパラガスが並ぶ。既に右手を伸ばしている春の女神〈アルミス〉が、中央山脈の麓のサミス村を優しく包み込むまで、あともう少しだ。
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